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□沙雪様より頂きました。
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ある日曜日

世間一般でいう休日

浅い眠りの中にいる私の耳に入り込んでくる

洗濯機を回す音



掃除機をかける音



フライパンで何かを焼く音



そして自分を包み込む温かな温もり















………………………ん?







「う…、ピ…ノコ…?」





うっすらと目を開け、焦点を定めると

顔から5cm程しか離れていない所に青白い死神の顔があった





「ちぇんちぇー!日曜日だかやっていつまでも寝てゆもんじゃありまちぇん!」





バンッ!





「うわあああぁぁあぁあっっ!!!?」





バタバタッ





「あっちょんぶりけ!」





ガタンッ!







「…相変わらず喧しい家だな、ブラックジャック」

「キ、キ、キ、キリコッ!?」





顔の青白い死神



もとい



Dr.キリコは何故か私のベッドに潜り込み(しかも上半身裸)私を抱き締めていた





「はっ、離せ…っ!!」



やたらと強い力で依然として体を解放しないキリコにイライラとしながら、私は奥の手を出した







「ふん!」





グキッ





「痛っ!?」





私の奥の手とは、相手の急所(今は鎖骨の上の窪み)を思いっ切り押す事だった(寧ろ刺す勢いで)



その痛みに思わずベッドから転げ落ちたキリコから飛び退いて、私はピノコにしがみついた





「っつ…、何をする」

「それはこっちの台詞だ!いつ私のベッドに侵入した!」

「お前が眠りについたその時からだ」

「分かるか!」



なんて言葉を交わしていても、情けないかな、腹は減ってしまう





グーーー……。





「あ……、」

「…不可抗力だな」

「こんな時だけ正論を言うな!」



羞恥と怒りで真っ赤になった私は未だにピノコにしがみついたままだった



ここでピノコからの助け舟が出た





「ちぇんちぇ、こんなれきそこないのコヨシヤみたいな人なんかほっといて朝ごはんにすゆわよ!」





私は初めてピノコの食事に心から感謝した















「…って何でお前まで一緒に食卓を囲んでいるんだ!」



「別にいいだろう」



キリコは黙々と私の隣で目玉焼きを口に運んでいた





「…それにしても不味いな」











ドスッ









「……」





キリコの前にはバターナイフが刺さっていた

その柄を握っているのは…真っ黒い笑みを浮かべたピノコだ



「何か言った?」

「言ってません」「ごめんなさい」



流石のキリコも震え上がっている

正直私も物凄く恐い



「(キリコ、それは禁句だ)」

「(あぁ…)」





アイコンタクトをして手早く朝食を片付けると、部屋に戻るべくドアに向かった





ガシッ





「んっ?」



足元を見ると、ピノコがズボンを引っ掴んでいた





……のみならずキリコまでが同じ事をしていた



正直上目使いはキモイ。やめてくれ。

ピノコは大変可愛らしいが



「なっ、何だ?」

「遊んでくれ」「お掃除手伝って欲しいのよさ」

「……」





ゴシャ





右足に貼り付いていたキリコを無言で踏みつけた後にピノコの方を向き直して「いいぞ」と笑顔を向けてやる













「…で、何をすればいいんだ?」

「えーっとぉ、まずは洗濯物を外に干すのよさ!」





私服や手術服やシーツが入った洗濯カゴを持ち、ベランダへ出て物干し棹にかけていく





「…ん?」



ベランダの角で大人しくしていたキリコは暑さにやられたのか、鼻から血を流して頬を上気させていた





「お、おい、大丈夫か?」

「ブ、ブラックジャック…」





下から見上げられたが、キモイとか言ってる場合ではない

熱中症かもしれない





私の差し伸べた手を握り返し、無意味に艶っぽい声で呟く





「ブラックジャックの…下着と生腕…」



「ピノコー、患者一人、安楽死に入る」

「はいよのさ!」





あぁそうか

こんな事があるから未だに安楽死は法律上、認められていないんだな…(※違います









「次は掃除なのよさ!」



私の担当は手術室と書斎と寝室に振り当てられた



「(やれやれ…最初はオペ室でも掃除するか…)」





全ての機材を消毒液に浸し、ライトも換え、埃なども綺麗に拭き取った



勿論後ろでキリコがじっと見ていたのは言うまでもない







次は書斎

私の自室でもある部屋だ





「此処がお前の部屋か」





物珍しそうにしげしげと部屋を見回すキリコ



………邪魔だな





窓を開け、ドアも開けて掃き掃除をするついでに、キリコも埃と一緒に部屋から叩き出した



ドアに鍵をかけ、早々と部屋を片付け、寝室に向かう



今朝トラウマが出来たピノコと共同で使っている部屋だ





「(さて…シーツ類はもう洗っているから…)」





換気をして掃除機でもかけるか、と思いながらドアノブを捻り、扉を開けると私の隣を突風が吹く



その風を生み出したのは……





「ブラックジャックの枕〜!!キャー!ブラックジャックのいい匂い!」











……キリコだ











「いい加減にしろ!」





半ば泣きそうになりながら私はキリコの髪を数本引っこ抜いてやった







最後にリビングで掃除をしているピノコを手伝いに行く





「ちぇんちぇ!もう終わったの?」

「あぁ、早くお前を手伝いたくてな」



キリコが居なかったらもっと早く来れたんだがな

しかも当の本人は後ろで頭をさすりながらじとっと睨みつけてくる





……私が悪いのか?





とにかくそんなキリコは置いておいて、ピノコの手の届かない高い所の埃を取る



…キリコの間接的なセクハラを必死にかわしながら、だ







そんな事をしていると、いつの間にか昼になっていた



(キリコの所為で疲れ過ぎて)別段腹は減っていなかったが、ピノコの作ったサンドウィッチを胃に詰め、綺麗にしたばかりのリビングのソファに体を放り出した





程良く入る日差しとつまらないテレビ番組



丁度良い満腹感は私だけではなく、両サイドに座っているピノコとキリコにも眠気を襲っていた(キリコは何故まだ居るんだ)





「ピノコ、寝ていいんだぞ?」



すでに舟を漕ぎ始めていたピノコに膝枕をしてやると、左隣に座っていたキリコまでが肩に頭を乗せてくる





…一瞬、首の骨をへし折ってやろうかと思った





「…涎を垂らすなよ」

「ブラックジャック…お前の匂いがするな」

「首の骨へし折るぞ」



なんて言いつつも、キリコの頭からもシャンプーのフワフワとした良い匂いがした



早くもスヤスヤと寝息を立てている2人に挟まれて密かに思う

















「(――――――こんな休日も悪くない)」





たまになら、この平穏を過ごしてもいい、と









「ムニャ…ブ、ブラックジャック…ジュル」



「言ったそばから涎を垂らすな!」




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