リストラ怪奇譚

□第3話 もうパチスロに頼るしかない
1ページ/1ページ

ここは、パチンコ店“村雲”。
遂に、運命の時が来た。
戦いが、始まる。
この戦いに勝利し、俺は金を手にする。
そうすれば、生活に困ることはない。
滋賀野「遂に来たな。」
枯鐘「広い店だな・・・。」
田中「必ず、勝ってみせる!この戦いに俺の、いや・・・。
   俺達の人生が掛かってるんだ!」
根森「でもよぉ、仮に勝ったとして、これからも勝ち続けるとは限らないぜ?
   金が尽きた時も、こうしているつもりか?」
笹野「確かにそうですね・・・田中さんどうしますか?」
田中「・・・これは懸けかも知れない、金が持っている間に就職できれば・・・。」
笹野「可能性は低いと思いますが・・・。」
菊崎「まあ大丈夫だろう、金さえあれば何とかなる。」
根森「ま、ぐだぐだ言ってても勝たないことにはどうしようもねぇ・・・。
   俺は見てることしかできないが、早速始めようぜ。」
滋賀野「一文無しの者には我が資金を提供しよう、だから参加してくれ。」
根森「本当か?そいつはどうも・・・。」
菊崎「これで俺も参加できる・・・。」
滋賀野「それでは席に着け!準備が出来次第始めるぞ!」
そうして全員が席に着き・・・。
滋賀野「ではこれより、試練のパチンコを始める!ゴングを鳴らせ!」
遂に戦いのスタートが切られた。
それはこの上ない死闘であった。
人生を懸けたギャンブルである。
負ければ地獄と絶望を・・・。
勝てば栄光と希望を手にすることができる・・・。
根森「こんだけいりゃ誰か一人は当たんだろ。」
笹野「そう甘くはないと思いますが・・・。」
田中「笹野、お前パチンコはやったことあるか?」
笹野「一応、あります・・・少しだけですが。」
田中「そうか、それで・・・成果は?」
笹野「・・・1万円、負けました。
   それ以来パチンコはやっていないです。」
田中「そうか・・・頼れると思ったんだがな。」
笹野「どうもこういう賭けごとは苦手なもので。」
根森「俺はパチンコ歴1年だ、18歳になった時始めたらハマっちまってよ。
   稼げる時と稼げない時があるが、5分くらいだろう。」
田中「そうか、俺もパチンコはそれぐらいの腕だ。
   たまにしかやらないんだけどな。」
枯鐘「俺は、パチンコをやったことは一度も無いな・・・。」
菊崎「俺は3回だけある、その内1回は10万円稼いだ。」
田中「な!?」
根森「すげぇな・・・。」
菊崎「後は千円負けたよ、いつも千円以上使わないって決めてるんだ。」
堀部「たった千円で10万円も稼いだのか・・・。」
菊崎「多分、まぐれだと思うけどな。」
堀部「俺はパチンコは一度もやったことがない・・・すまないな。」
滋賀野「私もだ。」
そうこう話している内にも、金は次第に減っていく。
だが、まだ一度も当たりが出ていない。
何度かリーチにはなったが、どうしても外れてしまう。
田中「当たらないな・・・。」
笹野「気長に待ちましょう、それしか言えないですね。」
根森「なあ、このまま一度も当たらなかったら・・・俺達どうなる?」
滋賀野「そんなことは、今は考えるな・・・戦いに集中するんだ。」
笹野「・・・リーチです。」
根森「777か、当たると大金ゲットだな。」
田中「これが、当たってくれれば・・・。」
・・・ピコーン
ジャラジャラジャラ・・・!!
笹野「!やりました!当たりました!」
田中「すげぇ、流石笹野!お前はやってくれると思ってたぜ!」
根森「どんどん出てきやがる・・・。」
堀部「すげぇ・・・。」
菊崎「この辺で終わらせた方がいいと思うけどな。」
田中「まだだ、まだ足りない・・・生活費は、もっと必要だ。」
滋賀野「・・・確かにそうかも知れないな。」
根森「でもこんな当たり、もう無いかも知れないぜ?
   今日の所は大人しく帰った方が・・・。」
田中「帰るわけにはいかない、俺達はここまで徒歩で来たんだ。
   もう2度と来ることはできない。」
菊崎「・・・そうだな・・・。」
田中「全部でいくらくらいだ?それ。」
根森「5万・・・くらいかな。」
田中「足りない・・・生活費には全然足りない・・・。」
笹野「そもそもパチンコで生活費を稼ごうというのが間違いなのでは・・・?」
田中「これ以外に、方法があるか?他のどのギャンブルより、確実じゃないか?」
笹野「・・・そうかも知れません。」
田中「仕事に就けない以上、これ以外に方法はないんだ。
   だからもし負けたら、その時は運命だと思って諦めるしかないんだ。」
滋賀野「お前に、運命を受け入れる覚悟はあるのか?」
田中「ああ・・・どんな結果も、受け入れてみせる!」
しかし、それから再び当たることは無く・・・。
田中「駄目だ・・・俺はもうない。」
根森「俺もだ・・・。」
堀部「俺も・・・。」
笹野「残っているのは菊崎さん、滋賀野さん、枯鐘さん、そして私ですね。」
枯鐘「俺はこれで最後だ・・・最後の一勝負、これで決める!」
スロットが回り出す・・・。
枯鐘「リーチだ!」
田中「頼む、当たってくれ・・・!」
しかし、外れてしまった。
枯鐘「・・・ごめん、無理だった。」
根森「仕方ねぇさ。」
菊崎「俺も、全然当たらなかった。」
滋賀野「後は私と笹野だけか・・・。」
田中「笹野、後どれくらい残ってる?」
笹野「これだけありますが・・・。」
根森「4万あるかないか・・・くらいかな。」
滋賀野「もし私の分がこのまま無くなれば、それで妥協しよう。」
田中「始めた時はいくらあった・・・?負けてんじゃないのか?」
滋賀野「いや、4万は大した収入だ。」
根森「負けた分も考えると・・・儲かったのは2、3万くらいだな。」
田中「・・・駄目だ、足りな過ぎる・・・。」
滋賀野「仕方がない・・・これ以上を求めれば、完全に破産する。」
田中「・・・クッ・・・おい笹野、その残り、俺によこせ。」
笹野「何故ですか?」
田中「いいからくれ!俺が、この手で切り開きたいんだ・・・!」
笹野「分かりました。」
根森「おい、その辺にしておけ。」
田中「この程度じゃ満足できない・・・。」
金を投入し、スロットを回す。
菊崎「!リーチだ!」
根森「さっき笹野が当てたのと同じ・・・777だ、いけるか・・・?」
田中「当たってくれ・・・!」
しかし、外れてしまった。
田中「大丈夫だ・・・次は当たるはず・・・。」
だが、次も、その次も当たらなかった。
根森「もうやめて帰ろう、もう十分だ・・・。」
笹野「確かにその通りです、これ以上は危険です。」
田中「負けられない・・・ここで帰るわけにはいかない・・・。」
堀部「田中、もう無茶だ・・・。」
田中はまだ金を投入し続ける・・・。
次第に金が減っていく。
根森「クッ・・・!」
根森は田中からパチンコ玉の入った箱を取り上げる。
田中「何すんだ・・・。」
根森「もうやめろ・・・!これ以上は無茶だ!」
田中「まだ・・・このまま終われない・・・返してくれ・・・。」
根森「駄目だ、返さねぇよ・・・。」
田中「根森 跳剣、お前には覚悟がなかったのか?
   お前の覚悟はその程度だったのか?
   俺達は誓ったはずだ、例えどんな結果が待っていたとしても・・・。
   それは運命だと、な。
   先のことは今はまだ分からない・・・。
   逆転勝利が待っているかもしれないし、このまま負けるかもしれない・・・。
   結果は、最後まで分からないんだ。
   だから、諦めては駄目だ・・・それで人生を台無しにしようとも。」
根森「・・・死ぬ気、ってことか?」
田中「ああ、最初からそのつもりだ・・・負ければ絶望的だからな。
   死は、覚悟した方が良いかも知れない。」
根森「俺達、死ぬのか・・・?この戦いに負ければ・・・。」
滋賀野「それは恐らく考えられないだろう・・・。
    だが、それくらいの覚悟を抱く必要はある。」
田中「覚悟が出来たらそれを返してもらおうか。
   できないなら、それを置いて逃げても構わない。」
根森「・・・路地裏同盟を出ても、どこにも行けねぇよ・・・。」
田中「そうだ、最初からお前はここにいるしかない。
   俺達と運命を共にすることが、最初から決まっているんだ。」
根森「・・・分かった、これは返す。」
田中「ありがとう・・・最後まで、諦めないで戦い続けるよ。」
根森「・・・頑張ってくれよ。」
滋賀野「待っているのは、勝利か・・・それとも敗北か。
    どんな結果が待っていようと・・・我等には、受け入れる覚悟がある!」
田中「ああ・・・!さあ、スロットを回そう・・・。」
こうして田中は決死の覚悟を胸に、戦い続けた。
しかし、結果は残酷なものだった。
運命に裏切られた瞬間だった。
田中「終わった・・・。」
その時彼等は、一文無しになったのだ。
“敗北”の2文字が脳裏を過った。
その場にいる全員が、運命を呪ったことだろう。
だが、後悔はしていない。
この結果を、覚悟していたのだから。
彼等は無言で帰路につき、路地裏の段ボールで一夜を明かした。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ