リストラ怪奇譚

□第4話 俺達の泣声〜Kaiko Bird
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河辺「浦部課長、紅茶を入れてくれないか?」
浦部「はい、只今入れて参ります。」
河辺「頼んだよ〜。」
浦部が紅茶を入れにいく。
そしてその後、ある人物が河辺に話しかける。
冴木「只今戻りました、河辺部長。」
河辺「おかえりぃ、どうだった?」
冴木「はい、田中と笹野の姿は確認できました。
   何やら団体に所属し、パチンコをやる途中だったようです。
   その団体は恐らく全員が無職だと考えられますね。」
河辺「無職の団体、かぁ・・・そこに拾われたんだね?」
冴木「そのようです・・・それで、その団体に私の中学時代の同級生がいましてねぇ。
   堀部 戒規というのですがね・・・警察に補導されてばかりのクズでしたよ。
   中卒で、今は職に就けずニートになっていました。
   笑えますよねぇ、アハハハハハ・・・!!」
河辺「ハハハハ!それは愉快だねぇ・・・いいザマだよ。
   特に笹野はね・・・あいつはいつも僕をムカつかせてくれた。
   だが、仕事ができる故に会社から外すわけにはいかなかったんだ。
   でも今は、こうして代わりがいる・・・。」
冴木「フフフフ・・・これからずっと、お仕えしますよ・・・河辺部長。」
河辺「ンッフッフゥ、君は仕事ができる・・・笹野に負けないほどねぇ。
   で、田中の代わりは見つかったのかい?」
冴木「はい、見つかりました・・・伊藤 遥誠という名です。
   今、お連れします。」
河辺「頼んだよ。」
冴木が去っていく。
河辺「さて、そろそろ浦部課長が紅茶を入れてくれる頃かな・・・?」
浦部は紅茶を入れ終え、河辺の元に向かう。
浦部「河辺部長、紅茶を入れて参りました。」
河辺「ありがとう〜。」
ズズ・・・
河辺「うーんやっぱり浦部課長の入れる紅茶はうまいなぁ。」
浦部「ありがたきお言葉にございます。」
河辺「やっぱり田中なんかの紅茶なんて飲むもんじゃないな。
   ヘタクソだし、タバスコ入れてくるし、ねぇ?
   おまけに仕事もできるわけじゃない、代わりなんかいくらでもいるんだよ。
   解雇して正解だったなぁ、あいつは。」
冴木「お取り込み中、失礼します・・・新入社員を連れて参りました。」
伊藤「初めましてぇ、伊藤 遥誠と申しまっす!
   この会社に入社できて嬉しいっす!よろしくお願いしまっす!」
河辺「お、元気がいいねぇ〜初々しいよ。」
冴木「彼もまた私の中学時代の同級生です、成績優秀のエリートでした。」
河辺「へぇ〜それじゃあ早速仕事を与えるよ。」
伊藤「お願いしまっす!」
河辺「これなんだけど。」
ドサ
河辺「今日中に終わらせてもらえる?」
伊藤「喜んで引き受けまっす!」
河辺「じゃ、仕事についていいよ。」
伊藤「それでは失礼しまっす!えっと、席は・・・。」
河辺「ああ、君の席には“田中”って書かれたシールが貼ってあるから。
   それを剥がして、これを貼ってくれ。」
そのシールには“伊藤”と書かれていた。
伊藤「分かりましたぁ!失礼しまっす!」
伊藤は自分の席に向かっていった。
河辺「ハハハ、どうせあんな量できやしないんだ。」
冴木「いえ、分からないですよぉ・・・?私は全部やり遂げると思いますね。」
河辺「そんな凄い奴なのかい!?」
冴木「夏休みの宿題は初日で全てやり遂げる男でした・・・。
   流石の私でも真似できませんよ、だから彼を選んだんですがね。」
河辺「むむ、今まで新人にあれをやらせてクリアできた者はいなかった。
   そして必ず僕の怒声を聞く羽目になるんだよ・・・。」
冴木「河辺部長、貴方も人が悪い・・・。」
河辺「でも君は特別だ・・・君とは信頼関係を築きたいからねぇ。」
冴木「私もあの量をやり遂げることはできませんでした。
   しかし・・・過去最高の量を終えたらしいですね。」
河辺「だから正直見直したんだ・・・そして驚くばかりだった。
   あれを全てやり遂げるなんて・・・ありえないよ、僕は懸けるね。」
冴木「賭けごと、ですか・・・こうしてやると楽しいものですね。
   パチンコなどの、金を捨てるようなこととは違い。
   それで、何を懸けます?」
河辺「君が勝ったら、ラーメンでも奢ってあげるよ。」
冴木「それはいいですねぇ、では私もそうします。」
河辺「じゃあ冴木君、持ち場に戻りたまえ・・・楽しみにしてるよ。」
冴木「はい、それでは失礼します。」
冴木は持ち場に戻った。
河辺「・・・浦部課長。」
浦部「何でしょう?」
河辺「勝ち組って、素敵だと思わないか?」
浦部「・・・そうですね。」
河辺「だって、負け組を見下せるんだからね・・・。
   田中、君の運命は見届けるよ。
   そして笹野・・・負け組に降下して、絶望を感じるといいさ。」
河辺は田中と笹野の写真を眺める。
河辺「職を失った人間など、羽をもがれた鳥に等しい。
君達は就職できない!絶対にね・・・。」

その頃、路地裏・・・。
菊崎「これから、どうする?」
堀部「一文無しに、なっちまった・・・。」
根森「もう無理だ・・・俺達は死ぬのか?」
滋賀野「諦めては駄目だ・・・最後まで希望を持たなければ。」
田中「覚悟していたとはいえ、やっぱり・・・辛いな。」
笹野「まさか、ここまで追い詰められるとは・・・。」
根森「田中、笹野・・・お前等家に車はあるか?
家のものをできるだけここに持ってきて欲しいんだが。」
田中「ここから俺の家までは相当な距離だぞ、地下鉄通勤だからな。」
笹野「私はバス通勤なので徒歩で行けなくはないですが・・・。
   徒歩で行くとなるとかなりの距離です。
   しかし、そこに車はあります。」
田中「果てしない旅になるな・・・。」
笹野「私達が、2人で行ってきます。」
根森「おい、仲間を放ってここで待ってろっていうのかよ?
   お前等が野垂れ死にでもしたらどうすんだよ。」
田中「・・・これが俺の連絡先だ、今はまだ使えるが直に使えなくなる。」
笹野「私のも教えておきましょう。」
根森「・・・俺達が電話なんか持ってると思ってんのか?」
笹野「そうですか・・・確かに、そうですね。」
田中「そうだ、笹野、お前の携帯ここに預ければいいんじゃないか?」
笹野「そうですね、それなら連絡できます。」
笹野は根森に携帯電話を渡す。
根森「・・・本当に、行っちまうのか?」
田中「ああ。」
根森「無事に、帰ってこいよ。」
田中「もちろんだ!」
根森「いいか?お前等が持ってくるのは食料と金。
   そして何か役に立ちそうなものがあったら持ってきてくれ。
   それを車に積んで運んでくるんだ。」
田中「ああ、俺も車持ってるけど・・・2台あった方がいいか?」
滋賀野「多い方がいいだろう、最悪金にすることもできるしな。」
田中「・・・全部、売るのか・・・そんな日が来ないことを願うな。」
笹野「それでは行きましょう、皆さんお元気で。」
根森「ああ・・・達者でな。」
枯鐘「無事に帰ってこいよ!」
菊崎「俺たちみんな、待ってるから・・・。」
滋賀野「お前達の、無事を願っているぞ。」
堀部「・・・。」
田中「それでは・・・行って参ります!」
そうして田中と笹野の2人は長い旅に出かけた。
その背中を、路地裏同盟の全員が熱く見守っていた・・・。

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