リストラ怪奇譚

□第5話 リストラケージ〜Kaiko-Kaiko
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根森「・・・行っちまったな、2人とも。」
滋賀野「ああ・・・あとは待つだけだ。」
菊崎「あの2人に、希望が託されている・・・俺達は信じていよう。」
枯鐘「生きて帰ってくることを信じて・・・。」
堀部「今、俺達ができることは何かないのか?」
滋賀野「ここで待っていること、くらいだろうな・・・。」
堀部「そうか・・・。」
根森「信じることはできるんだからよ、今は気長に待つしかねぇよ。」
菊崎「俺達は物乞いでもするか?」
枯鐘「・・・それしかないなら、仕方ないな。」
滋賀野「物乞い、か・・・。」
根森「乞食になっちまうのかよ、俺等・・・。」
堀部「それじゃあ、外に出るぞ・・・。」

その頃、田中と笹野。
田中「お前の家はどっちだ?」
笹野「こちらです。」
田中「分かった、で、どれくらいで着く?」
笹野「今日中には着くでしょう。」
田中「食料は持たずに来たけど大丈夫か?」
笹野「一日くらい飲まず食わずでも人は死にません。
   家に着けば食料はあります。」
田中「調理はどうする気だ?」
笹野「ライターと木があれば日には困りません。
   田舎なので木ぐらいすぐ見つかります。
   ご飯は炊いて持っていきましょう。」
田中「分かった。」
それから、2人は歩き続けた。
その間は2人とも無言で、沈黙が続いた。
ただ2人の足音と、車の走る音、風の音などが辺りを支配した。
そして田中が口を開いた。
田中「おい笹野、まだ着かないのか?」
笹野「まだまだ先です。」
田中「はあ、あとどれくらいだ?」
笹野「あと4、5時間くらいは歩かないと着かないと思います。」
田中「そんなに、かよ・・・?」
笹野「はい。」
田中「お前、疲れないのか?」
笹野「私はまだ大丈夫です、田中さんこそ平気ですか?」
田中「ああ・・・何とかな、でもそんなに持つ気がしないよ。」
笹野「頑張ってください。」
田中「ああ・・・。」
2人は歩き続ける。
やがて人気も無くなり、民家の数も次第に減っていった。
人通りも少なく、車の走りも減った。
田中「お前、こんな所に住んでんのか?」
笹野「はい・・・。」
田中「・・・笹野、大丈夫か?疲れたか?」
笹野「少し疲れましたね、流石にここまでの距離を歩いたのは初めてなので。」
田中「何時間くらい歩いた?」
笹野「貴方の携帯に時計がついているでしょう?」
田中「ああそっか・・・今は、15時23分・・・。
   出発した時は12時になってなかったはずだから・・・。」
笹野「3時間30分くらい、ですか・・・結構歩きましたね。
   田中さん、疲れませんか?」
田中「オレも疲れたよ・・・かなりな。」
笹野「ここまで食料もなし、水分もなし・・・辛いですね。」
田中「あとどれくらいで着く?」
笹野「もう少し歩かないといけませんね・・・あと、1時間ぐらいでしょうか。」
田中「・・・頑張ろう。」
笹野「そうですね。」
田中「俺達の帰りを待ってるやつらがいるんだ。
   そいつらの為にも・・・歩き続けよう。」
2人は残りの道を歩き続けた・・・。
2人とも次第に息が荒くなってきている。
だが、目指すべき目標のため、2人は前へと進んでいく。
目の前に道がある限り、進むだけだ。
次第に家も少なくなっていき、そして遂に一つもなくなった。
辺りには草木が生い茂っており、そこに一本道があるだけだった。
更に進むと山が見えてきた。
その山の近くの道に沿って歩いていく。
田中「まだか・・・笹野・・・。」
笹野「もう少しのはずなのですが・・・。
   その僅かな距離さえ歩く気力がもう、ありません・・・。」
田中「諦めるな・・・もう少しなんだろ?どれくらいだ?」
笹野「あと20分程度歩けば、着くはずです・・・。」
田中「は・・・そんなに、か・・・もうそんな体力残ってないぞ・・・。」
笹野「ここまで来て・・・こんなところで終わってしまうとは・・・。」
田中「まだ16時だ・・・ここで休憩、しようぜ?」
笹野「駄目です、いけません・・・ここで休めば遅くなってしまいます。
   今日中に私の家に着いて、明日には出発できるようにしなくては・・・。
   その為には持ち物の支度が必要です。」
田中「1時間だけ、休もうぜ・・・?」
笹野「食料も水分も無いので、遅くなればそれだけ体力を消耗します。
   なるべく早く帰った方がいいのです。」
田中「でもお前だって無理してるだろ?休もうぜ?」
笹野「これくらい平気です・・・行きましょう。」
田中「おい、待てよ!」
フラッ・・・
ドサ
田中「!笹野!?おい笹野!」
笹野「・・・やはり、無理だったようです・・・田中さんの言うとおりでした。
休みましょう、まだ時間はあります、1時間くらいなら問題はありません。」
田中「分かった、どこで休む?」
笹野「あの山にもたれ掛かって座りましょう。」
田中「ああ。」
2人は山の付近へと移動した。
笹野「次第に暗くなってきます、暗くなってくると厄介です。
   なるべく早めに進みましょう。」
田中「そうだな・・・だが焦る必要はない。」
笹野「・・・ところで、ここは自殺の名所として有名なのですよ?」
田中「そうなのか?」
笹野「私の家はここから少し遠い所なのですが・・・、
   ここは夜になると霊が徘徊するそうです。」
田中「!心霊スポットって、ことか?」
笹野「そうですね・・・夜ここを通るバスが事故にあったこともあるそうです。
   カーブを曲がらずまっすぐ進んで転倒したらしいです。
   幸いけが人だけで死者は出ませんでしたが・・・。」
   その事故を霊の呪いと呼ぶ人もいます。」
田中「そんなの、あるはずないだろ・・・。」
笹野「他にも、夜ここを走っていた車の運転手が白い人影のようなものを見たとか。
   私は夜ここを通ることが無いので関係ないですが。
   ここの山では首吊り死体などがいくつか発見されました。」
田中「・・・。」
笹野「だから夜になる前に家に着くようにしましょう。」
田中「霊なんているわけ、ないよ。」
笹野「あるかどうか分からない脅威に対しては、あると思うのが賢明です。
   無いと信じたいのは人間の恐怖の現れですから。」
田中「・・・そうか、確かに正しいな・・・。」
笹野「ですから急ぎましょう、暗くなる前に。」
田中「お前、もう大丈夫なのか?無理してないか?」
笹野「はい、少し休んだら大分楽になりました、田中さんはどうですか?」
田中「俺は、もう少し休ませてくれ・・・。」
笹野「ではあと10分休んだら出発します、しっかり気持ちを落ちつけてください。」
田中「ああ・・・。」
2人は気を静め、体を休めていた。
ここは何だか不気味な場所だと、田中は思った。
確かにここなら霊がいてもおかしくはない、そんな気がした。
“おじさん達、だれ?”
田中「何か言ったか?」
笹野「いえ、何も。」
“何しに来たの?”
田中「何か、聞こえないか?女の子の声・・・。」
笹野「きっと気のせいでしょう・・・。
   しかし、もし気のせいではなかったとしたら・・・それは霊ですね。」
田中「今は夕方だぞ?霊なんかいるのか?」
笹野「霊が夜しかいない、というのは人間によって作られた考えです。
   いついてもおかしくはありませんよ、本当にいるのなら。」
田中「ここに長くいるとあまり良くないな・・・行こう。」
笹野「そうですね。」
2人は再び歩き出した・・・。
やがて山を抜ける・・・。
すると、今度は坂道を下る場所に出た。
笹野「見えてきました、あれが私の住む町です。」
坂道の下には民家が立ち並ぶ町らしきものが見えていた。
田中「やっと、着くのか・・・。」
笹野「ここまで来ればあとは楽でしょう、坂を下るだけですから。」
田中「そうだな。」
2人は坂を下っていった。
そして次第に町へと近づいていった・・・。
笹野「あと一歩です・・・。」
やがて町の入り口を示す看板が見えてきた。
民家も近くに見えている。
田中「遂にここまでやってきたな・・・。」
「か〜ごめかごめ」
すると突如、近くから声が聞こえてきた。
田中「何だ?」
2人は声のする方へと顔を向けた。
女性「そこ行くお兄さん、お恵みをど〜うぞ。」
田中「な、何だ?」
笹野「どうやら物乞いのようですね・・・。」
田中「彼女もまた、俺達と同じ運命を背負っているのか・・・。」
笹野「・・・すみません、私達も浮浪人なのです。」
女性「しゅん・・・そうですか。」
田中「そうだ笹野、彼女を路地裏同盟で迎え入れないか?」
笹野「そうですね、そうしましょう・・・。」
田中「ねえ君、名前は?」
女性「私、綾瀬 篭芽と申します。」
笹野「今私の家に向かっているところなのですが、一緒に来ますか?
   運命を共にする者として、歓迎しますが。」
綾瀬「本当ですか!?嬉しいです!」
田中「でも生活は保障できないよ?それでもいいか?」
綾瀬「はい!私は一人で心細かったので・・・仲間ができただけでも気が楽です!」
田中「そうか、よろしくな。」
綾瀬「はい、私のことはかごめと呼んでください!かごめちゃんです!」
田中「じゃあ行こう、かごめちゃん。」
綾瀬「はい!何だか楽しくなってきますね、うきうき!」
笹野「少し変わった方ですね・・・。」
綾瀬「よく言われますよ、てへ!」
田中「これだけ元気があればあの生活も苦にはならないかな?」
綾瀬「そんなことないですよ〜、でもみんな恵んでくれるのですよ〜。」
田中「そうなのか・・・俺達の所に来ても恵んでくれる人、いるかな?」
綾瀬「どうでしょう、期待が高まりますねぇ。」
笹野「・・・とても前向きな方だ・・・絶望の結末を少しも考えていない・・・。」
田中「みんな彼女のように元気を出していけばいいのかもな・・・。」
笹野「ところで、もう町に着きましたが・・・あと5分くらい歩けば私の家です。」
田中「やっとだな。」
綾瀬「楽しみですねぇ、どんな家でしょうか?わくわく。」
ピピピピ・・・ピピピピ・・・
突如電話が鳴る。
田中「あいつらからだな。」
ピッ
田中「もしもし?」
『ああ、俺だ・・・根森だけどよぉ、もう家には着いたか?」
田中「もう少しだ・・・あと5分くらいで着く。」
『そうか・・・頑張れよ。』
田中「あと、新しい仲間が出来たぞ。」
『何?』
田中「かごめちゃんっていう女の子だ、彼女も一緒に家に向かってる。」
『そうか、そいつはよかったな。』
田中「期待して待ってろよ。」
『ああ・・・無事で帰ってこいよ。』
田中「ああ、じゃあ切るな。」
『おう。』
ピッ
綾瀬「誰ですか?」
田中「ああ、俺達の仲間で路地裏同盟の副隊長、根森 跳剣だ。」
綾瀬「跳剣さんですか、格好良い名前ですね。」
田中「そうだな。」
綾瀬「路地裏同盟・・・私も早く会ってみたいなぁ。」
笹野「恐らく明日にでも会えることでしょう。」
綾瀬「楽しみです!」
笹野「さて、残り少ない道・・・気を引き締めていきましょう。」
綾瀬「はい!」
田中「・・・そうだな。」
何だか彼女がいれば、上手くいくような気がした。
それほどに彼女は前向きで、元気があった。
この絶望の状況も乗り越えられるはずだと、そう思った。
暗闇の中に舞い降りてきた一筋の光・・・。
それこそが、彼女だった。
俺達はかごの中の鳥。
かごの中を彷徨うが、出口など無い。
そのかごの中に、小さな希望が生まれた。
今はその希望を信じていくしかない。
たとえその光が小さく薄れて消えたとしても・・・。

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