桜色舞う頃

□第六話
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「…不愉快だ。月は闇が生み出した闇の眷族」


ゆっくりと歩き出した【冬姫】に、誰も声をかける事が出来ない。

何か音を発した瞬間、突き刺さる空気が爆発する…そんな気がした。


わずか数歩で気絶している隊士の元に辿り着いた【冬姫】は、嫌悪感を露わにさり気ない動作で右腕を振る。

刹那、隊士たちはその身を灰に変え、サラサラと音をたて崩れ去ってしまった。


「なっ…!?」


驚愕する声が漏れ、信じられないと先ほどまで転がされていた人のなれの果てを凝視する。

凝視するも最早人の姿などはなく、人であった灰の山と着ていた着物、巻かれていた縄だけが残されているばかりだ。


「……つぅ…ッ。…闇に近い【わたし】の前に現れた事を後悔するんだな。
闇に還すなどしない。…永遠なる時間を彷徨え」


僅かに息をのみ【冬姫】は僅かに眉を寄せ、左腕を一瞥する。

傍目では分からないが、腕を伝う温かいモノを感じながら崩れ去った『人間のなれの果て』を見下ろす。

憎々しげに灰を見下ろしていた【冬姫】は不意に顔を上げ、沖田と山南を睨みつけた。

否、その先の襖を睨みつけ優雅な動作で手を一振りした。

バンッ!と誰の手も触れることなく襖が開き、暗闇からのっそりと何かが顔を覗かせる。


「うおっ!?な、なんだぁ!?いきなり戸が開くなんて盛大な歓迎だな…っ」

「……確かに『盛大な歓迎』ではあるな」


顔を覗かせたのは逃げ出した隊士の一人を追っていた永倉と斉藤だった。

永倉の肩には細身の隊士が担がれ、ぐったりとしている。

その隊士の髪を見定めた【冬姫】は、射殺さんばかりに彼らを睨みつけた。


「な、なんだ…?そんな怖い顔をすんなよ、冬姫ちゃん…っ」

「いや、そもそも何故雲月がここにいる。彼女は就寝してたのではなかったのか?」


状況が良く分かっていない永倉と斉藤は、困惑した表情で、睨みつけてくる【冬姫】とそれを取り巻く幹部たちを順々に見まわす。


「そんなことはどうでもいい!どうして今帰ってくるんだよ…っ!

「そ、そうだぜ!ああ!?その隊士はどっかに避難させなくちゃいけねえんじゃねえ!?」


あそこの灰の二の舞になる!と、原田と藤堂はどうにか彼らを遠ざけようと必死に声をかけるが、永倉と斉藤には伝わらなかった。

訳の分からないまま原田たちを見ていた斉藤は、不自然な灰の山を見つけ顔を顰める。

ついで土方を見れば、彼は苦虫を噛み潰したかのような顔で灰の山に舌打ちをし、永倉に担がれている最後の脱走者を見据えた。


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