紅き蝶 白き魂

□1話
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冬の冷たい風を全身で受け止め、浅葱は足早に進学塾に向かっていた。

掃除当番にあたってしまい、妹や親友、友人達と帰れなくなったことに多少気分を害されながら黙々と歩いて行く。

しかし元来の性質か、はたまた表情筋が死滅しているか彼女の心情を察する者はおらず、傍目には無表情で小走りしているくらいにしか映っていないのだろう。

それでも艶やかな黒髪を靡かせながら歩く姿は美しかった。


「……私も行きたかったな……」


小さく呟かれた言葉に寂しさを滲ませ、首に巻いているマフラーを巻きなおす。

見上げた空は雲に覆われ気分が浮上する事はなかった。


(……それにしても、美朱ったら授業中に食べ物の夢なんて。食い意地だけは人一倍ね)


生憎姉妹で同じクラスにならなかったため、詳細は分からないが親友である本郷唯(ほんごう ゆい)に話は聞いていた。

なんでもその夢のせいで先生にこってり絞られたらしい。

どうりで帰りに顔を合わせなかったはずだ。


「………」


不意に帰りがけ先生に言われた言葉が脳裏によみがえった。



双子なのに、どうしてこうも出来が違うのか。お前は妹の様に気を抜くなよ…と。



産まれた頃から言われ続けてきた『言の葉』が胸に突き刺さり、浅葱はぎゅっと手を握り締めているしかなかった。


(…確かに私は美朱より勉強も運動もできるけど、でもあの子のように人を惹きつける“才能”はないもの…。
あの子はそこにいるだけで皆を癒せるけど、私は“みんな”を遠ざけるしか出来ないもの)





私はあんなにキレイに笑えない。

私はあんなに純真でない。

私はあんなに人に懐く事はない。



どれも天があの子にくれた贈り物だ。運動や勉強なんて本人の努力でなんとでもなる。

でもその性質までは変えられない。


優しさは努力で培われるものではない。だから私には“ない”。



“優しさ”や“純真さ”は『過去』に置き去りにしてきたから…。



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