紅き蝶 白き魂
□8話
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「さぁ、ゆっくり休みなさい。話を聞くのはそれからよ」
握られていた茶器をそっと取り、柳宿はゆっくりと浅葱を寝かせる。
浅葱はされるがまま寝ると、キュッと「何か」を握り締めた。
「なぁに?」
「―――――とう……みあか」
「え……?」
か細い声から出た名前に柳宿は目を瞬かせる。
そんな事など知らず、浅葱は本能のままに眠りについた。
その手には「何か」である「柳宿の手」を握りしめて。
―――――
静かな寝息をたて始めた浅葱の顔を見詰め、柳宿は軽く息を吐き出した。
どうやら知り合いか家族と間違えられたらしい。
ただその名前がとてつもなく知っている「とある少女」と同じ名で軽く動揺してしまった。
「知り合いかしら?」
それとも"向こう"には同じ名前を持つ人間が多いのだろうか。
そんな事をつらつら考えていた柳宿は、握られてしまった手を握り返し、張り付いてしまった髪をそっと退けてやる。
枕元に目を転じれば、起き上がった際落ちてしまった布が転がっていた。
それを拾い水に浸そうとした柳宿は右手が拘束されていたことを思い出し、仕方なく明鈴を呼び寄せ眠る少女の身を清めさせた。
水分をとった事がよかったのか彼女の呼吸は落ち着き、安堵の吐息をこぼす。
寝ていると人形のようだと思っていたが、起き上がっても人形のような少女だったなとぼんやりと柳宿は思った。
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