□抱きしめてあげたい。
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帰り道、風乃が急に〈断章詩〉を唱えた。
「ねえ雪乃・・・〈愚かで愛しい私の妹。あなたの身と心とその苦痛を、全て私に差し出してくれる?〉」
「・・・は?」
***
「愛しい物って、どうしてこうも抱きしめたくなるのかしら。ねえ、お願いだからその身体、私に貸して?」
突然何を言い出すのかと思ったら、ふざけた戯言を並べ立てた風乃。
雪乃の眉間にしわが寄る。
「姉さん、私があの感覚嫌いなの知ってて言ってるでしょ。・・・皮肉と嫌味は今度聞くわ」
「あら、酷いのね。」
「抱きしめられなくても、話ぐらい出来るでしょ。白野君の所にでも行って来れば?」
「可愛い〈アリス〉は今頃学校よ。・・・嫉妬?」
くすくすと楽しむように言う風乃。挙句の果てに、触れられない雪乃の頬を突っつく。
「姉さんっ!いい加減にしないと怒るわよ。」
もう怒ってるじゃない、と風乃は笑う。
「大丈夫よ。身体を借りたら、一番に抱きしめてあげたいのは貴女だから。」
「・・・・・・。」
雪乃はもう何も言えなくなった。
「・・・〈あげるわ〉」
「えっ?」
「〈あげるわ〉って言ったの!!もう勝手にして、姉さん!」
傍目から見れば相当激しい独り言のように見える、愛情こもった姉妹の会話。