□序章
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春は、出会いの季節だ。
今日、この学校に転校してきた2人の少女もまた、この春に桜の木の下で出合った者達の一人。
その内の一人は、長い髪を後ろで一つに結った、小柄な少女。綺麗な眼が、印象的だった。
もう一人は、クセ毛と思われる四方八方に可愛らしく跳ねた髪を、ヘアピンで耳の後ろにまとめている。
・・・これが、お互い――いや、クセ毛の女の子が思った第一印象だった。
そして、感じるはずの既視感は感じなかった。
――どこかで、会った事があるのに。デジャウは感じない。全てのコマンドを受け付けない、その記憶の―――、
時は、遡る。
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「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ―――っ!!!」
断末魔の叫びがこだまする、ここは島。
比較的暖かい季節のようで、近くの海岸にはやしの実がなっている。太陽の光が暖かく降り注ぎ、波がシャパシャバと砂浜に打ち寄せている。
・・・そんな光景にあまりにも不釣合いな叫びがこだまして、不吉な予感がして足を進める。
その頃の私に「不吉」なんていう感情は多分無かったけど。
幼いなりに何かを感じた。
ただそれだけだ。
――「――が!!・・・・・・ね、――――――――あああ・・・・・・!!」
あれは、誰の声?私は知ってる。余りにもいつもの声とは違う其の声音に、一瞬だけ戸惑ったけど。あれは――
そんな思考は、洋館に一歩足を踏み入れたとたん消えうせた。
瞳に飛び込んでくる光景に、私の頭は付いていけていない。脳の奥、自分の第六感がサイレンを鳴らす。網膜が、焼ける――!!
あとは、すべてが、やみ。
***
「初めまして」
そう声を掛けたのはクセ毛の少女のほう。
「あなたも転校生・・・だよね?私は遠藤 茜。あなたの名前は?」
遠藤茜、と名乗った少女に話しかけられて、驚いた様子を見せるもう一人の少女。話しかけられた事に驚いたのではなくて、その少女が発した言葉に、「初めまして」に戸惑った様子を見せた。
それも一瞬だけで。
「・・・うん。私は長谷川 梢。よろしく、茜ちゃん」
梢と名乗った少女は、淋しそうな笑顔を浮かべた。欠落した何かを思う時、人はこんな顔を浮かべるのだろうか。
ともかく。
記憶の濁流に飲み込まれそうになった精神を守ろうとして、ダムを作っただけ。調整のきかない「それ」はその時からそのままで。
本当にただ、それだけの話。