□腕の中に
1ページ/1ページ
・・・「灰かぶり」の事件から一段落して、今この町の〈ロッジ〉は平和そのものだった。
異形から救う為だったとはいえ、クラスメイトの杜塚眞衣子を殺したと言う事実は、なかなか蒼井の心の中から消えない。
「白野くん、紅茶でも飲むかい?」
「あ、頂きます」
遠まわしに隣に座るかいと進めてみたら、承諾してくれた。
「・・・ダージリンですか?」
「ああ。知り合いの喫茶店から貰ったんだ。」
「そうなんですか。美味しいです。」
「そう言ってあげたら、きっと喜ぶよ。」
他愛の無い日常会話。
〈騎士〉になった者にとって、すぐに壊れてしまう可能性のある日常。
それが、恐い。
・・・思わず手を伸ばして、彼を抱きしめた。
「・・・神狩屋さん?」
「――僕は、恐いよ。志弦もそうだけど、目の前に居る大切な人が居なくなってしまう事も、この日常が壊れる事も。僕は望んでない」
だから、みんなみんな。
この腕に、閉じ込めてしまいたい。
「神狩屋さん・・・」
蒼井も、同意するように目を閉じた。
この幸せな時間が、いつまでも続くように、祈りながら。