黒い竜の物語
□第一話 黒い瞳の少年
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夕暮れ。
空が赤く染まる頃、街の食堂は夕食を取る人々で賑わっている。
そこに、一人の少年がやって来た。
扉を開けて店に入って来たのは、黒目黒髪、着ている物も黒一色の少年。
「来たね」
店の奥から顔を出した女が、少年に声を掛ける。
少年は、この辺りでは色々と有名だった。
彼は気楽に手など振り、
「あちこち回ってたら、腹減ってさ。すぐ出来る?」
少年はメニューには目を通さず、女に訊ねる。
女は肩をすくめ、
「アンタが満足するだけのモンをすぐ用意するのは難しそうだよ」
女は背を向け、カウンターの奥へ向かう。
「もっとも……用意出来ない訳じゃ無いけどね」
女は、肩越しにウインクして見せた。
少年は笑顔で答える。
「んじゃ、よろしく♪」
少年はグラスの水を飲み干す。
賑やかな店内。
他愛の無い世間話から、奇妙な噂話まで実に様々な会話が聞こえてくる。
――と、
「おい、聞いたか? あの話」
「ああ。あの……虹竜の話だろ? 聞いた」
なにやら男二人が話込んでいる場所に、少年は割って入った。
「何の話だ?」
「うわっ!?」
「ビックリした……なんだ、お前か。脅かすなよ」
言われて、少年は口を開く。
「別に脅かしたつもりはないけど。それより……虹竜が何だって?」