黒い竜の物語
□第三話 霧に浮かぶモノ
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深い森の中。
ジェクスは体を引き摺るようにして歩いていた。
体が思うように動かない。
(……たった一撃……音も痛みも無い一撃だというのに……)
彼は、左腕に目をやる。
もう見えなくなっているが、そこにはブラックドラゴンに刻まれた呪いがある。
ジェクスは、自らの腕に爪を立てた。
引き裂かれた腕から血が滲む。
と――その時。
『無様な格好ね。ジェクス』
頭上から声がした。
ジェクスは、視線を上に向ける。
そこに居たのは、自分と同じ長い白銀の髪に、紫水晶のような瞳を持つ女だった。
『だから言ったのよ。真っ正面から行ったってアイツは殺せないって』
『……リヴェイア』
女――リヴェイアは、軽い音を立てて地に降り立つ。
指先に髪を絡ませながら、
『力で押してどうにかなるような相手なら、私がとっくに殺してるわよ』
『……見ていたのか……』
『見なくても分かるわ。貴方の周囲には黒竜の魔力が渦巻いているもの』
彼女の言葉を聞き、ジェクスは問い掛ける。
『……リヴェイア。これはお前の力でもどうにもならないのか……?』
ジェクスの瞳を見据え、リヴェイアは即答した。
『無理ね。呪術は基本的に掛けた本人か、それ以上の術者でないと解けないけど――私は黒竜以上の術者を知らないもの』
『…………っ』
きつく目を閉じるジェクスを見て、リヴェイアは視線を逸らした。
『ま、アイツの事だから何かしら条件付きで術を仕掛けたんでしょうから……条件さえ満たせば解呪出来るはず』
『……他に手段は無いのか』
苦渋の表情を浮かべるジェクスに、リヴェイアは頷く。
『無いわ。アイツが解くか、条件を満たすか……黒竜以上の術者を見付けるのは不可能に近いし……』
『では……私を転移させる事も出来ないのか?』