黒い竜の物語

□第四話 足跡
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湖の中心に浮かぶ小さな島。
その島は昔から呪われていると言われていて、近付く者はほとんど居ない。

特に霧が出たら危険だと言われている。
実際、何人か島を調べに行ったが、誰一人戻って来なかった。

村へ帰る途中、その湖の側を通るのだが、その島に人影が見える。
彼は、その人影に向かって大声で叫んだ。

「おおい! そんな所で何してんだ!?」

「……ん?」

黒竜は砕けた魔石の欠片を見送って、振り返る。
対岸から呼び掛けてくる者がいた。
黒竜は軽く跳躍し、その男のすぐ側に着地する。
それを見た男は、驚いて目を見開いた。

「おお……すげぇな、お前」

「ふっ……こんなの朝飯前よ」

と、黒竜はある事を思い出す。

「ああ。ホントに朝飯食ってなかった」

へなへなとその場に座り込むと、男を見上げ、

「何か食うもん持ってねぇ?」

黒竜の問いに、男は困ったように眉根を寄せる。

「わりぃな。今は何も持ってねぇんだ」

「はぁ……腹減った」

黒竜は息を吐く。
すると、男が思い付いた様に声をあげた。

「そうだ! この先に村があるんだが……良かったらウチへ来ないか? 簡単なモノしか出せないが――……」

「ご馳走になります!」

黒竜は彼の手を取り、キラキラと輝く瞳を向ける。

「そ……そうか。ちょっとだけ歩くけど勘弁な」

男はそういうと、歩き始めた。
黒竜もその後に続く。

「ああ、そうだ。俺はグレイグ。お前さん、名前は?」

聞かれて、黒竜は名乗る。

「俺様は黒竜♪」

「……黒竜? どっかで聞いた名前だな」

「おっ? どこで、どこで?」

期待を込めた眼差しで、彼の言葉を待つ。
グレイグは、暫し考え込み――やがて、ポンと手を打つ。

「ああ! 確か、アルデの街で年一度開かれる大食い大会で、五年連続優勝してるヤツだろ?」

「……そんな事か……」

何故か落胆の色をみせる黒竜に、グレイグは首を傾げる。

「何だよ? すげぇ事だと思うぜ? 俺は。その業界じゃ有名だぞ」

「どうせなら、なんかもっとカッコいいので有名になりたい」

黒竜は低く呻いた。
 
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