黒い竜の物語
□第五話 黒竜と白竜
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ブラックドラゴン――
彼らが地上から姿を消したのは、今から千年近く前になる。
強大無比な魔力を持ち、一度その力を振るえば一瞬で見渡す限りが焦土と化す。破壊の象徴として恐れられた存在――
だが今はその姿を見る事はない。
たった一人――彼を除いては。
◆◇◆◇◆
爽やかな風が髪を撫でる。
その風を受け、彼は上機嫌で歩みを進めた。
足取りは軽く、トットッと軽い音を立てて地面を蹴る。
黒髪黒目。着ている服も真っ黒な少年。
傍目に見れば、特にどうという事は無い。
十五かそこらのただの少年である。
だが、彼はただの少年では無かった。
ブラックドラゴン――かつて破壊の象徴として恐れられた漆黒の竜。
その少年――黒竜は、リンゴをかじりながら独りごちる。
「先に手ぇ出したのは向こうだもんな♪」
言って、リンゴの芯を投げ捨てた。
彼の歩いて来た道は綺麗さっぱり更地になり、無数の魔物が横たわっている。
「……ちょ〜っとやり過ぎちまったかもしれないけど……」
黒竜はちらと背後を見やった。
自分が居る場所と、魔物が横たわっている場所ははっきりと分かれている。
この辺りは広大な森林地帯だったが、その半分程が消えて無くなっていた。
「たまにやると力加減が難しいんだよな」
軽く頭を掻く。
黒竜は普段、その強大な魔力を抑えて生活している。
ただ常に抑制している為、たまにそれを解放した時、力の加減が思うように出来なかった。
力を適度に発散させる事が出来れば多少は違うのだが、無闇矢鱈と物を壊したり、自分からけしかけるのは気が進まない。
「なんかこう……ちょうど良い“遊び相手”が居ればなぁ……」
黒竜はぼんやりと虚空を見詰めた。