黒い竜の物語
□第七話 旅立ち
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『……じゃあな。じぃちゃん。俺、行くから』
仲間の遺体を術で地に沈め――黒竜は踵を返す。
この地は死ぬだろうと黒竜は思った。
ブラックドラゴンの血液は猛毒で、あらゆるモノを死滅させる。
この地の緑はすでに失われつつあった。
本来ならば、その毒素を中和する力がこの地にはあったが、完全に力を失っている。
あまりにも多くの血が流れたせいだ。
(……ここは……誰も踏み込めなくなる)
黒竜は胸中で呟く。
だがそれで良い。
この地は誰にも汚される事は無い。
一族が生きていた証そのものだ。
他の誰も、それを踏みにじる事は許されない。
『……たまには墓参りに来るよ』
そう言い残し、黒竜は姿を消した。
ブラックドラゴンの里を離れた黒竜は、行く当てもなく歩く。
『……さぁてと。これからどうすっかなぁ……』
当然、自分を迎え入れてくれる一族がいようはずもない。
『…………』
黒竜は空を見上げる。
(じぃちゃんはなんで俺を人間界へ飛ばしたんだろ……)
意図しての事では無いかもしれない。
最後の瞬間はあまり思い出せないが――長老が、ただ攻撃の届かない場所へ黒竜を送ろうとしただけなのだとしたら、転移した場所に意味は無いだろう。
ただの偶然に過ぎない。
だが――
『……他に行く当ても無いしな』
黒竜は呼吸を整え、意識を集中させると空間転移した。