盲目の魔術士
□第一章 盲目の魔術士
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荒れた大地。
乾いた風が吹き抜けて行く。
「…………」
彼女は無言で、歩き続ける。
そして、小さな村の前で足を止めた。そこが、目的地である事は間違い無い。地図に示された通り歩いて来たのだ。
だが。
そこは、自分が思っていたよりも、ずっと荒れていた。
村を囲んでいる塀は崩れ落ち、地面には、剣や折れた矢、鍬等が散らばっている。人気は無く、どの家も閉ざされていた。
彼女が、村へ入ろうと足を踏み出した――刹那。
「……ここに何の用だ?」
背後から声。
そして、首筋に剣が突き付けられた。刃のこぼれた、今にも折れそうな剣。
彼女は、微動だにせず、静かな声音で答えた。
「私は……この村を救いに来たのです」
それを聞いた男が、剣を握る手に力を込める。
「……帰れ。命があるうちに」
「このまま立ち去る事は、私には出来ません。……剣を下ろして下さい。私は貴方の敵ではありません」
「帰れと言っている……!」
男は、こちらの声に耳を貸そうとはしない。
彼女――ラフィナは、首筋に触れる刃を見据え、口を開いた。
「……肋骨が二本、折れています。それと右腕、右足も傷を負っていますね」
「!?」
その言葉に、男は驚愕した。
自分は、確実に背後を取ったはずだ。姿を見られてはいない――いや。見たとしても。
何故、そこまで分かる?
「……お前……」
「剣を下ろして下さい。貴方の身体は、立っているも辛いはずです」
「…………」
男の手から力が抜けた。ゆっくりと下ろされた剣を見ながら、ラフィナは男の方へ向き直る。
「私はラフィナ。法術師です。まずは貴方の傷から癒します」
そう言うと、ラフィナは男に手を翳す。手のひらから生み出された暖かな光は、男を包み込み、あっという間に傷を癒した。
「……まだどこか痛みますか?」
ラフィナの問いに、男は無言で首を横に振る。
それを見て、ラフィナは安堵の吐息を漏らす。
「良かった……」
「…………」
男は、再び剣を握る。
「何故、俺の傷を癒した……殺されるかも知れねぇってのに」
「……貴方の剣には殺気が込もっていませんでした。それに――」
ラフィナは向きを変え、歩き出す。
「私は、この村を救いに来たのです。傷付いた人を見捨てる事など出来ません」
男は、剣を肩に担ぎ、嘆息した。
「……アンタ、変わってるな」