盲目の魔術士
□第二章 邂逅
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青空の下、ゆらゆらと揺れる虹色に輝く三つ編みの髪。それを見つめながら男は呟いた。
『なぁ…何で入り口にこっそり置いてきたんだよ?堂々と返してやりゃあ良かったのに』
緑眼の男は怪訝な顔で三つ編みが揺れる背中に話し掛けた。
『顔を合わせたくないからだ』
だから夜明け前に村の入り口…結界内に置いてきたのだ。
『あ!分かった!お前鼠小僧に憧れてるんだろ!?粋だね〜!俺そういうの結構好きだぜ♪』
『鼠じゃない。竜だ』
緑眼の男はポカンと口を開ける。
『…お前、鼠小僧知らないのか?…あ、そうか…ここ異世界なんだっけ』
思い出したように苦笑して頬をポリポリと掻いた。
『付いてくるな…俺に関わらない方が良い』
振り返った男の髪は朝日を受けてキラキラと虹色に輝いている。
『何で?』
きょとんとした顔で聞き返す緑眼の男。
『俺が虹竜だからだ』
『…で?』
『俺は人間から忌み嫌われてる』
『そうか。取り敢えず、俺は忌み嫌ってないから問題ないだろ?』
言って、ニカッと笑う男。
虹竜は数時間前からこの男に圧倒されっぱなしであった。
『あぁ…そういやアンタの名前聞いてなかったな。俺はフレ……』
言いかけて詰まる。
『…いつもの悪い癖だな。ここは異世界だってのに暗部ネーム名乗ってどうするんだ…』
緑眼の男は苦笑する。
『俺はフェルディナント・ハートレイだ。フェルナンって呼んでくれ。アンタは?』
『…クリオレシア』
『おし!宜しく!クリオレシア』
そう言うとフェルナンは、ニコニコしながらクリオレシアの肩をバシバシと二度程叩いた。
…警戒心ゼロで人懐っこ過ぎる…クリオレシアは心中で呟いた。
『なぁ、クリオレシア。今どこに向かってるんだ?』
クリオレシアと並んで歩く青年は、クリオレシアより少しばかり身長が低い為、やや見上げる形となる。
『別に』
フェルナンは怪訝な顔をする。
『別にって……街にぐらい向かってるんだろ?』
『向かってない』
フェルナンはあんぐりと口を開く。
『…じゃ…じゃあ、今日どこで過ごすつもりだよ』
『そこらへん』
『…自由人だな…まぁ、野宿ぐらい慣れてるけど……腹減った……はっ!!』
フェルナンはふと何かを思い出したように声を上げる。
『違う違う!俺何まったりしてんだよ!?』
フェルナンはクリオレシアの両肩を捕まえた。
『戻る方法知らないか?』
『…知ってる』
『うぉい!じゃあ何ですぐ教えてくれねぇんだ?』
『お前が聞かなかったから』
『いや、そういう問題じゃないだろ』
意外と冷静なのか、クリオレシアの返答に透かさず突っ込む。
『で?方法は?』
『魔術』
『魔術?魔法か?』
『…知ってるのか?』
クリオレシアの両肩から手を離すと、フェルナンは掌を上に向けた。
『こんなのか?』
言った直後、フェルナンの掌からバチバチと音を立てた光が現れた。
『雷…か?お前…雷を操るのか』
クリオレシアの呟きにフェルナンが頷く。
『ちょっとな、或る切っ掛けがあって以来、操れるようになったんだよ』
そう言うと、掌の雷を消した。
『で?魔術でどうするんだ?』
『異空間を開く』
クリオレシアは淡々と答える。
『俺の魔術で、どうやって開けば良いんだ?』
『無理だ』
『え゛?』
『お前、魔力は多少あるみたいだが…その程度の魔力じゃ異空間は開けない筈、どうやって異空間を開いたんだ?』
怪訝な顔をして聞くクリオレシア。
『そんなの俺が聞きたいっての!どうすりゃ良いんだよ!!』
『俺』
先程から質問に対して短い言葉で答えるクリオレシアに痺れを切らしたのか、フェルナンの額に青筋が浮かぶ。
『だぁぁぁぁ!!面倒臭いから纏めて話せ!お前が何だ?』
『俺と満月で異空間開いたら戻れる』
『纏め過ぎだ!!訳分からん!』
『纏めろと言っただろ?』
本気で怪訝な顔をしている事から、クリオレシアがふざけてない事が窺える。
コイツ、て……天然だ…
その一文がエコーを伴ってフェルナンの脳内を駆け巡る。
『お前…天然だろ?』
フェルナンの言葉に首を傾げるクリオレシア。
『…ああ。自然は好きだ』
『…いや、自然じゃなくて天然な』
フェルナンは脱力してその場に座り込んだ。
『どうした?もう疲れたのか?』
『ああ、お前にな』
うなだれながら答えるフェルナンに、怪訝な顔をするクリオレシア。
が、フェルナンは即座に気を取り直した。
『まぁ良い!こうなったら歩きながらたっぷり聞かせて貰う!』
表情がコロコロ入れ替わるフェルナンを、青年は不思議に感じていた。
『お前、変な奴だな』
『ああ、そうかもな。よく言われ…って、お前には言われたくない!!』