盲目の魔術士
□第三章 再会と融解
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ラフィナから街への移動を提案され、クリオレシア達は帽子を購入しようとしていた事を思い出し、ラフィナと共に街へと向かった。
一行が辿り着いたのはかなり大きな街で、何やら街中が華やかに彩られていた。
『えらく賑やかな街だなぁ。パレードでもやってるのか?』
フェルナンが街中を見回しながら言った。
『おや?旅人さんかい?賑やかなのは当たり前さ!今日から3日間、この街ではお祭りが催されるんだからねぇ』
粋な声音で答えてくれたのは、出店の準備をしてる中年の女性だった。どうやら、フェルナンの言葉を小耳に挟んだらしい。
『なる程、お祭りか…ご親切にありがとう』
笑顔で礼を言うと、フェルナンは女性が準備している商品を見た。
それに気付いた女性がフェルナンを見る。
『気に入った物でもあったかい?』
並べられている物は装飾品の類である。主に女性物が殆どだったが、中には男性物もチラホラ混ざっている。
『…それ……』
フェルナンは目を見開き、二つの耳飾りを指差しながら戸惑いの色を含んだ声で訊ねた。
『それ、どこで手に入れましたか?』
気のせいだろうか…フェルナンの声は微かに震えているように聞こえた。
『フェルナン?どうしたの?』
フェルナンの様子を訝しく思ったのだろう。傍に居たウェヌスが、フェルナンの顔を覗き込みながら彼を案じた。
フェルナンは何とも言えない表情をしていた。蒼白になり、驚いたような…疑うような…それでいて、瞳には何かを切望しているかのような光が宿っているようだった。
『?この耳飾りが気に入ったのかい?』
言って、女性は耳飾りを手に取りフェルナンによく見えるように、二つの耳飾りを乗せた手をフェルナンに差し出した。
その耳飾りの装飾を見て、ウェヌスは驚愕した。
『これ…似てる』
プラチナの耳飾りには木の枝と枝葉が丁寧に彫られており、外側は小さな真紅の宝石で縁取られている。真紅の宝石の内部をよく観察すると、太陽のような陽色の煌めきが宿っているのが見て取れる。
『まさか……ヴォーダンの雫?』
ウェヌスが震える声で呟いた。
『お願いします!これをどこで手に入れたか教えて頂けませんか?』
フェルナンは余裕の無い表情で女性に訊ねた。女性はフェルナンを訝しく思いながらも、口を開く。
『…2ヶ月前に、売って貰ったんだよ』
『どんな人でしたか?』
フェルナンは間髪入れずに質問した。
『どんな人って…そうだねぇ…凄く綺麗な青年だったねぇ。銀色の髪で…青い瞳をしてたかねぇ?…そうそう、背が高くて細身だったよ』
フェルナンとウェヌスは顔を見合わした。
『まさか…』
二人は同時に言葉を零していた。
そして、二人の視線は耳飾りへと落とされた。釣られて女性も耳飾りに視線を落とした。
準備中の出店に引っかかっていたフェルナン達とはぐれてしまったクリオレシアとラフィナ。
はぐれた原因は人混みである。二人は人混みに流されてしまったのだ。
押し流されながらクリオレシアが得た情報といえば、祭が夕暮れから開始されるという事と人々が祭り好きという事だ。そして人混みが極めて動き辛いという事を実感していた。
『…参ったな…』
彼に取って、こんな人混みに紛れたのは初めての体験だった。
そんな中、クリオレシアはさり気なくラフィナを庇うように歩いていた。
だが、クリオレシア本人にはラフィナを庇って歩いているという自覚は無かった。どうやら、無意識にラフィナを庇っているようだった。
人混みに流されたお陰といえるのだろうか…二人は帽子を取り扱う店の前に出た。
『…丁度良かった』
クリオレシアは無感動な声音で、そう呟いていた。