白き鬼

□第1話 白き鬼
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「う〜……さぶっ」

その日は昨晩降り積もった雪で山は一面真っ白だった。
その山を一人の男が肩を竦めながら歩いていく。

長い黒髪を靡かせる二十歳そこそこの男。

「……コイツが無いとどうも落ち着かねぇからな」

男は町で仕入れた酒瓶を撫でる。
と――

「……ん?」

男の視界に何かが見えた。
この雪山には似つかわしくないモノ――
男はそちらに足を向けた。

「……コイツは……」

そこに居たのは赤ん坊だった。
行きは気付かなかったが、布にくるまれたその赤ん坊の体は半分雪に埋もれている。
男は雪を払い、赤ん坊を抱き上げた。
赤ん坊はぴくりとも動かない。

「……捨て子か。可哀想に……どら、埋葬くらいはしてやるか」

そう言った瞬間だった。
赤ん坊の瞼が僅かに動いた。

「!?」

男は驚いたような表情で赤ん坊を見る。
赤ん坊の眼が開く。
その眼はまるで血のように紅く、吸い込まれそうだった。

「いっ……生きてたのか!?」

男は信じられない思いで赤ん坊を見下ろす。生きているハズがない。
だが腕の中の赤ん坊は、確かに生きた眼でこちらを見ている。

「……………」

男は呆然と立ち尽くす。
暫し迷い――体も冷えてきたので、とりあえず家に帰る事にした。
赤ん坊を連れて。
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