てきと。
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「記憶喪失で、道端に寝てたの拾われ、姫様そっくりで」
「えぇ…まぁ」
「お前怪しくねーか?」
(仰しゃる通りでーーー!!!)
この人は、処刑の時偉そうにしていたおじさん。そして今、制服や小物など沢山置いてある部屋に2人で来ているのだ。
「Sかな…Mかな…」
「…オールサイズならSの方…かな?」
ピタリと動きを止め、ジトーっと見てくる。
「…Sね。ま、君Sっぽいもんね!にゃはは」
(とてつもなく違う意味で聞こえるんだが…)
「お…あった!ほれっS。これがお前の制服だ。それから、兵士の証のバッチ。これは大事だから絶対に無くすんじゃないぞ!」
そんな事を言いながら制服同様ポイっと投げられ、慌ててキャッチする。
「わっ!は、はい…」
(なんでこんな事に――…)
昨日はあんなにもいい夢(…じゃないけど)、見ていたのに。
姫じゃないと見破られ、捕まって捕まって、処刑されかけて……
影武者になると言われたときは、気絶するように私は眠り込んだらしい。
「あのぉ…!影武者って兵士なんですか?」
「んー?姫護らなきゃいけねーなら兵士だ!ま、細かいこと気にするなっぎゃははは!」
(コイツ…)
「知ってると思うが、俺が兵の総司令官“バランダ・ウィリー”だ。バランダって呼んでくれ」
(へー、知らねぇ。)
バランダさん。気さくで話しやすい人だな…
総司令官なんて肩書き合ってんのかな…
「お前、名前は?」
「ミユです!」
「おぉ、ミユ。今日からお前はうちの兵として王室の護衛をする。期間限定だからって軽い気持ちでやってもらったら…死ぬぞ」
……“死ぬ”?
・・・
「ま、女の子にはそんな酷なことはやらせねーよ!」
ポンっと頭に手を置く。
「えっ」
「今は姫にとって人生で一番大事なトキなんだ。だからその分、デルべナートの奴等が姫を狙いやすい」
そこまで言うと頭をぐしゃぐしゃにして、ニィと笑う。
「分からんことがあったら俺に聞きな!ただじゃとは言わねーがな!にゃははは」
(コイツ…)←口癖になりそう
夕飯は兵の食堂に来い。
それから…兵士達はきっとお前をすんなり認めてくれないと思うが、お前次第だ。
そう言い残して去っていった。
「そうだよね…身元も分からない大騒動起こした張本人だもんね、私」
はー…と大きくため息を吐き捨て、制服とバッチを見つめギュッと握り締める。
「こうなったらやるっきゃないよね!帰る術を見つける為にも!」
気合いを入れる傍、私の事をずっと見つめている人がいるなんてこの時はまだ知らなかった。