小話
□涙
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「…うそつき」
そう、彼女は呟いた。
薄暗い静かな部屋で。
「…うそつき」
低い沈んだ声で。
大きく見開いた眼は少し滲んでいる。
泣かないようにしているのだろうか?
嗚咽を堪えるように呟いている。
「ねえ。アナタ言ったよね。あの時、言ったよね。」
「『僕は君をずっと守りたい』って言ったよね。」
「あの秋の海の浜辺でさ…恥ずかしそうに顔なんか赤らめちゃってさ。」
「言ったよね。」
そうだね。確かに僕は言ったよ。
「なんで!?なんでよ!?」
ごめんね。約束…守れなくてさ。
「アタシ幸せだったのに…」
「アナタが居てくれて、アナタに愛してもらって、プロポーズに『給料の三ヶ月分だ』なんて照れくさそうにダイヤの指輪を渡してくれた時の気持ち、すごく幸せだったのに。」
ごめん。本当に…ごめん。
「なんで…なんでよぅ…」
泣かないで。
って言ってももう聞こえないか。
愛してくれたのにごめん。
守ってあげられなくてごめん。
幸せにしてやれなくてごめん。
僕にはもう泣いているキミを優しく抱きかかえる事も、キミを幸せにしてあげる事も、
もう出来ないんだ。
「ねえ…言ってよ。もう一度言ってよ。」
「愛してるって…言ってよ…」
そう言うと彼女の眼から我慢していた涙が一筋、頬を伝い、ゆっくりと流れ落ちた。
ごめんね。それと…
ありがとう。
そうして彼は…