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□朱と黒
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男、深山翼の怪我の具合は良好らしい。
あと二三日で治るとか。

須田はそれを聞かされたとき、直也はどうするのかな、と不安を胸に抱いた。
彼がヤクザ絡みの怪我をしたなら、族内は相当荒れているのだろう。

直也は、何を考えている?
須田はジッと直也を見つめながらそう心に呟いた。



「んだよ」

『…ううん…』

「高橋さん、木原には連絡つかないんですか?」

「…えぇ、申し訳ありません。お嬢様の方もやはり、揉め事が生じたようでして」

「お嬢様の会社、買収されかかってんだって」


二人を余所に、メイドと綾瀬は木原の話をしていた。
一週間程度かと思われた会社からの召集以来、全く連絡が取れていないそうで、綾瀬が不審に思い高橋に聞いていた。


「どこに買収されかかってるんですか?」

「雪革組だ」

「…んだって!?」


福山が会社名を告げると、直也は突然立ち上がり、福山に掴みかかった。


「それ、本当か?」

「確かですよ、直也様」

「だからアイツ…来やがったのかよ……」
 

直也はぼやくようにそう言うと、単身のまま外へ出た。
高橋はどこへ行くのか聞くが、直也は何も言わず林の中に消えた。




『…直也!』

「沫様…なりません!」

『離して!直也を一人にしちゃいけないっ…離せ!』

「いけません!綾瀬様!」


直也を止めに行きたい一心で暴れる須田。
しかし高橋の叫びで、須田の意識はシャットアウトした。
綾瀬が須田を気絶させたのだ。


「すぐに木原グループの者が、直也様の所在を探します。どうか、皆様は別荘から出ないようにお願いします」




駿介は、直也の去った先を見て嫌な予感を覚えた。
とても…嫌な予感…を。









須田が目を覚ましたのは、辺りが真っ暗な夜中の事。
最近部屋換えをして一緒になった直也の姿は何処にもない。
まだ、見つからないようだ。

須田は枕に顔を埋めて、不安から来る涙を隠した。
何故、涙が出るのか。
不安なのだ……
消えてしまう不安にかられているのだ。

かつて、須田を置いて先に逝った両親のように、儚く消えるのではないか。
自分の前から、消えるのではないか。
 



涙は止まらず、不安が膨らむ。
それから、もう一つの感情が湧き出てくる。
――頼られない悲しみ。
何故、このような想いが出てきたのか須田は判らず、戸惑った。

ジッとはしていられず、須田はある人の部屋へ向かった。
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