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□朱と黒
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“心を作る基礎合宿”の参加から早くも一ヶ月が過ぎた。
何かを得た者もいれば、何も得れずに孤独を背負う者もいる。
ただ、一つだけ言えることは…


“四人に友情が芽生えた”事。
友情以外の感情が芽生えた者もいるにはいたが、それは例外だ。


木原の催しは、本人が居ない間に良い方向に進んだといえよう。




『…雨』


先月の末に続いていた雨が、またもや降り始めた。
須田は直也と共にてるてる坊主を作ってみたが、効果は見ての通りとなった。


「自然現象は仕方ねぇよ」

『キャラ、変わったな』

「大人になったんだ。お前は、相も変わらず無関心ってぇか無気力ってぇか…変わる気ねぇの?」

『雨止まないかな』

「マイペース辞めないか?」


今日も平和のようです。




廊下が騒がしくなり、部屋のドアが開け放たれた。
犯人は意外にも駿介。
この前から須田と険悪なムードだった。
にも拘わらず入ってくると言うことは、相当な用事なのだろう。


「沫、直也、玄関に来て!」

「んだよ、今度は!」
 

「大ケガした不良さんを運ぶの手伝って!メイドは治療用具とか、救急車とかで手が空いてないの!」

『………行く』

「…」



駿介に連れられ、玄関へ向かうと確かに素性が悪そうな男性が、グッタリと血を流しながら倒れていた。
直也は石化したように動けず、綾瀬と駿介と須田で運んだ。








治療は高橋がやり、他は手助け。
須田らは見守っていた。


「傷が深い……刀か、斧?どちらにせよ、只者が相手ではない」

「…ヤクザとか?」


駿介はビクビクしながら高橋に聞く。
答えを出したのは意外にも直也だった。


「…族だ。ヤクザに乗っ取られた、不良が集まる族だよ」

『…直也』

「君の知り合いか?」

「……な…っぉや……総長…」


福山が直也に質問した後、男は開口一番にそう言葉を発した。
それを聞いた一同は、直也を一斉に見た。
直也はバツが悪そうに俯き、男の言葉を促した。


「ぉれ、貴方の…チームの幹部……でした。でもっ…ゲホッ!副総長は、貴方を…追い、出した。それからっ…ゴホッ!カハッ……狂って…」
 

「救急隊員が来ました、貴方は助かりますよ!その後で話をしなさい、いいですね!」


高橋が話を区切り、男を病院に運んだ。
直也はその間、苦虫を潰すような苦痛な面持ちで固まっていた。





 
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