裏会

□。
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良守には、幼い頃から変わる事なく、唯一人の想い人がいた。
欲しくて、掴みたくて、でも上手く逃げられる。
綺麗な顔をしているくせに、吐かれる言葉は常に辛辣。話す内容も仕事絡みの話のみ。
それでも、自分が彼女を守るのだと、そのための努力は惜しまなかった。
いつか、自分がもっともっと強くなれば、彼女は振り向いてくれるだろうか。


『時音…やっぱり俺は、諦めることなんかできないよ…まだまだ、弱いまんまだな…。』



長過ぎる片想いは、実ることはないだろうと、心の何処かでは分かっている。
だが、断ち切ってしまうには、やっぱり時間がかかるのだろう。
切ないこの呟きが、一片でもいいから伝わらないものか…良守は星を眺めながらそんな自分に自嘲の笑みを浮かべていた。




ーーーーーー暗闇と静寂がが辺りを包み込んで行く頃。


時音はとある一室を訪ねた。

最近建てられたのだろう、真新しい高層マンション。その最上階の住人に用事があったのだ。
もう夜中だが、そいつは絶対部屋には居ない。そしてベランダに繋がる掃き出し窓には絶対、鍵がかかってないはずだ。
能力を使ってそこから中を伺って、やはり不在だと確かめると、時音は難なくその窓を開けて中に入った。

『う〜ん、まだ12時かぁ…ちょっと早かったかな…。』

退屈凌ぎに部屋の中を探索しながら、ウロウロと見て回る。
それにしても無駄に広い部屋だ。
広く大きなダイニングとリビング。その中央付近には螺旋階段がついていた。二階に上がると3つも部屋が付いているが、これまた広い。
確か独り暮らしと聞いていたが、こんなに大きな部屋でなくてもよかったのでは…。
やれやれと息をついてリビングに戻り、また周りを見渡して溜息をつく。

『それにしても…なぁんにもない部屋ねぇ…。』

確かに広い部屋なのだが、あまりに広いと感じるのは、きっと家具というものが少なすぎるからだろう。
よく使うキッチンにはいろいろとあるようだが、リビングなんかテレビどころかソファーひとつ置いてない。

『殺風景ね〜。』

『悪かったな。』

『ひぁっ?!』

呟いた途端、背後から低い声で応えられて、びっくりして振り返ったら、真っ黒な装束姿の良守が、腕組みをして立っていた。

『びっ…くりしたぁ〜。なによ、急に湧いてこないでよ、ビックリしたじゃないのっ。』

相変わらずの時音の口調に、良守の眉が跳ね上がる。

『阿呆。ビックリしたのはコッチの方だ。お前、何やってんだよ、こんなトコで。つかこの場所、なんで知ってんだよ。』

良守は高校卒業と共に家を出た。
誰にも居場所を告げなかったのは、就職先が一般人とはかけ離れた別次元の組織だから。
烏森のお勤めもすっかり終わったが、やっぱり良守はこの世界に身を置くことを決めたのだ。
幸い、組織と牛耳っているのは良守の兄だ。
特に苦労することなく組織に入れただろう。

『ふふ。元気そうで良かった。』

『や、マジで…なんでここが分かったの?』

幼い頃からの想い人への未練も断ち切り、この2年間はその穴を埋める勢いで休みなく働いていたというのに、なぜ今更、その想い人がここに忍んで来たのか不思議でしょうがない。

『ふふ。テレパシーで。』

『…………お前〜。』

キリキリと眉が上がる良守に、時音は声をあげて笑った。それから良守を見上げて、じーっと見つめる。

『なんだ?』

『良守…おっきくなったねぇ、すっかり大人っぽくなって…』

うっとりと呟いたかと思ったら、ゆっくり良守に近付いて、それからその腰に抱き付いた。

『はぁ…会いたかった、良守…なんで私に何も言わずに遠くに行っちゃうのよ…。』

弱々しく呟きながら、時音は顔をそこに擦り付ける。抱きついた途端、ビクッと良守が震えたけど、それでも抱き締めてくれた。

『…会いたかった?お前が…俺に…?』

『そうよ。良守に会いたくて…ここに来たのよ。』

『ウソだろ?だって…お前は…俺の事なんて…』

時音の顔に嘲笑が浮かぶ。
相手にではなく自分にだ。
良守の気持ちはよく分かる。
あの頃の私は、常に良守を遠ざけていた。

『ごめんね、良守…勝手な私を…許して…。』

居なくなって初めて気づいた彼への恋情。
自分が敢えて言わなくても、日々彼からの気持ちは溢れていたから、私はその感情を出すことをサボっていた。
良守は絶対私からは離れない、と勝手に決めつけて我儘勝手に過ごしてきた日々が腹立たしい。

『今さら…今さらだよね…ホントに。』

彼に散々、追いかけられてきた。
今度は私が追いかける番だ。
彼の心が今どこにあるか分からないけど、分からなくなってしまうほど離れていた時間は長いけど。
それでも、諦めたくないと本心が訴えていた。






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