裏会
□好き過ぎて…
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『時音、ちょっとウチに寄ってかない?』
『は?イヤよ。ジョーダンじゃない。』
『…お前…なんでだよ〜…。』
それは夕暮れの帰り道。
良守と時音は一緒に並んで歩いていた。
少し前までの時音なら、良守のコトなんて、昼間は無視か拒絶かしていたが、今は一緒に登下校するようになっていた。
…というのも。
烏森も無事、封印した良守が、高校に上がってすぐの頃、2人はめでたく恋人同士になったのだ。
(なったんだけどなぁ…)
それから早、7ヶ月。
恋人にはなったものの、淡白な彼女はあんまり甘えてくれないし、口を開けばキツい声…。
優しい声が聞けることが、この7ヶ月で何回あったか…。
(片手で余裕で数えられる…。)
良守は、ヤレヤレと切ない溜息が漏れてしまった。
冒頭のように、誘えば即答で拒否される。
それでも奇跡的に、体を繋ぐことは出来たのだ。
4ヶ月前に一度だけ。
7ヶ月付き合って一度だけ…。
以来、誘ってもさっきみたいに拒否られるのだ。
手を繋いだり
キスをしたり
それさえも滅多にしない彼女に、良守は首を傾げるばかりだった。
(もしかして…嫌われてんのか?
嫌々付き合ってもらってんのか?
俺ばっか突っ走って、コイツはそれ程なにも想っていないのか?)
最近、そんな事ばかり考えてしまって、良守は珍しくネガティブになっていた。
そんなこんなで、2人は会話もなく、家の前まで着いてしまった。
『ハァ…。時音…、やっぱ寄らずに帰る?』
もう一度聞いてみると、時音は何やら少しだけ考えながらしゃべり出した。
『う…ん…。なんで?なんか用事でもあったの?』
だが、その言い様が良守のネガティブな部分を突つく。
『…用事なけりゃ、誘っちゃいけねーのかよ。』
負の感情がとめどなく溢れ出して、勝手に言葉が口を吐いて出てくる。
『や…別にそういうワケじゃ…。』
怒りを含んだ低い声に、まるで取り繕うような時音の作り笑いが、ただひたすらカンに障る。
なんかもう、どうでもよくなってきた。
(俺ばっか必死でバカみてぇ…。)
『も、いい。
じゃーな。』
明らかに怒っている様子の良守に、時音はやっと気付いたが…。
『あっ、ちょっ…!!』
時すでに遅し…。
良守は、サッサと門戸をくぐって家に入ってしまった。
『マズい…。アイツ、本気で怒ってる…。』
もういい、と言ったときの良守の顔付きは、明らかに諦めて醒めたような顔をしていた。
普段あまり時音に対して怒ったりしない良守が、あんな態度をとるなんてよっぽどだ。
『ハァー…困ったなぁ…』
大きな大きな溜息を吐いた時音は、物凄い困惑を露わにして、トボトボと自宅に入っていったのだった。
───────────
─翌日─
『行ってきます。』
ガラッと門戸を引き開けて、路地に一歩踏み出した。
『『あ。』』
同時に顔を出した2人は、同時に声を上げて見合わせた。
『お、おはよ、良守。』
昨日の事があったから、時音は思いっきり作り笑いになってしまった。
それを良守はただ悲しそうに見つめ、そのまま視線を外して無言で歩き出した。
『ちょっと…待ってよ、良守…。』
慌てて追いかけて隣に並ぶも…
『『…………。』』
会話なし…。
(ヤバいなぁ…。
気まずいよぅ〜…。
良守、まだ怒ってる?
なんか喋んなきゃ…。
でも…)
時音は考えるばかりで話なんか出てこない。
チラッと良守を横目で見上げるが…。
良守は、ひたすら無表情で、なにを考えているのか分からない。
コッソリ小さく嘆息した時音は、会話は諦めて、ただ俯いて歩き出した。
そのうち住宅街をぬけ、街中に出て、人も多くなってきた。
それでも…
会話することなく…
だが…
『あ…危ない…。』
突然、良守に肩を抱き寄せられた。
後ろから自転車が来たから…。
だが時音は…
『ひゃっ…!!』
ビクンッと身体が飛び上がり、つい逃げの体制に入ってしまった。
『…………ワリ。』
短く謝り手を離すと、少しだけ時音が離れた。
仮にも彼女に、そんな態度をとられてしまうと、良守だってズキンと傷付く。
(今…確実にコイツ…、逃げたな…。)
そんなに自分は嫌がられてんのか…。
だんだん良守は悲しくなってきた。
結局、その後は学校に着くまで、やっぱり会話することなく、それぞれ無言で教室に向かったのだった。