裏会

□好き過ぎて…
1ページ/11ページ



『時音、ちょっとウチに寄ってかない?』

『は?イヤよ。ジョーダンじゃない。』

『…お前…なんでだよ〜…。』


それは夕暮れの帰り道。
良守と時音は一緒に並んで歩いていた。

少し前までの時音なら、良守のコトなんて、昼間は無視か拒絶かしていたが、今は一緒に登下校するようになっていた。

…というのも。

烏森も無事、封印した良守が、高校に上がってすぐの頃、2人はめでたく恋人同士になったのだ。

(なったんだけどなぁ…)

それから早、7ヶ月。

恋人にはなったものの、淡白な彼女はあんまり甘えてくれないし、口を開けばキツい声…。

優しい声が聞けることが、この7ヶ月で何回あったか…。

(片手で余裕で数えられる…。)

良守は、ヤレヤレと切ない溜息が漏れてしまった。

冒頭のように、誘えば即答で拒否される。

それでも奇跡的に、体を繋ぐことは出来たのだ。

4ヶ月前に一度だけ。

7ヶ月付き合って一度だけ…。

以来、誘ってもさっきみたいに拒否られるのだ。

手を繋いだり
キスをしたり

それさえも滅多にしない彼女に、良守は首を傾げるばかりだった。

(もしかして…嫌われてんのか?
嫌々付き合ってもらってんのか?
俺ばっか突っ走って、コイツはそれ程なにも想っていないのか?)

最近、そんな事ばかり考えてしまって、良守は珍しくネガティブになっていた。

そんなこんなで、2人は会話もなく、家の前まで着いてしまった。

『ハァ…。時音…、やっぱ寄らずに帰る?』

もう一度聞いてみると、時音は何やら少しだけ考えながらしゃべり出した。

『う…ん…。なんで?なんか用事でもあったの?』

だが、その言い様が良守のネガティブな部分を突つく。

『…用事なけりゃ、誘っちゃいけねーのかよ。』

負の感情がとめどなく溢れ出して、勝手に言葉が口を吐いて出てくる。

『や…別にそういうワケじゃ…。』

怒りを含んだ低い声に、まるで取り繕うような時音の作り笑いが、ただひたすらカンに障る。

なんかもう、どうでもよくなってきた。

(俺ばっか必死でバカみてぇ…。)

『も、いい。
じゃーな。』

明らかに怒っている様子の良守に、時音はやっと気付いたが…。

『あっ、ちょっ…!!』

時すでに遅し…。

良守は、サッサと門戸をくぐって家に入ってしまった。

『マズい…。アイツ、本気で怒ってる…。』

もういい、と言ったときの良守の顔付きは、明らかに諦めて醒めたような顔をしていた。
普段あまり時音に対して怒ったりしない良守が、あんな態度をとるなんてよっぽどだ。

『ハァー…困ったなぁ…』

大きな大きな溜息を吐いた時音は、物凄い困惑を露わにして、トボトボと自宅に入っていったのだった。


───────────


─翌日─

『行ってきます。』

ガラッと門戸を引き開けて、路地に一歩踏み出した。

『『あ。』』

同時に顔を出した2人は、同時に声を上げて見合わせた。

『お、おはよ、良守。』

昨日の事があったから、時音は思いっきり作り笑いになってしまった。

それを良守はただ悲しそうに見つめ、そのまま視線を外して無言で歩き出した。

『ちょっと…待ってよ、良守…。』

慌てて追いかけて隣に並ぶも…

『『…………。』』

会話なし…。

(ヤバいなぁ…。
気まずいよぅ〜…。
良守、まだ怒ってる?
なんか喋んなきゃ…。
でも…)

時音は考えるばかりで話なんか出てこない。
チラッと良守を横目で見上げるが…。

良守は、ひたすら無表情で、なにを考えているのか分からない。

コッソリ小さく嘆息した時音は、会話は諦めて、ただ俯いて歩き出した。

そのうち住宅街をぬけ、街中に出て、人も多くなってきた。

それでも…

会話することなく…

だが…

『あ…危ない…。』

突然、良守に肩を抱き寄せられた。
後ろから自転車が来たから…。

だが時音は…

『ひゃっ…!!』

ビクンッと身体が飛び上がり、つい逃げの体制に入ってしまった。

『…………ワリ。』

短く謝り手を離すと、少しだけ時音が離れた。

仮にも彼女に、そんな態度をとられてしまうと、良守だってズキンと傷付く。

(今…確実にコイツ…、逃げたな…。)

そんなに自分は嫌がられてんのか…。

だんだん良守は悲しくなってきた。


結局、その後は学校に着くまで、やっぱり会話することなく、それぞれ無言で教室に向かったのだった。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ