裏会

□その後の2人
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『ちょっとそこまで付き合ってくんない?』



雪村家の玄関先で
彼はそう言って微笑んだ。

ニコニコと人の良い笑みを浮かべる彼は

隣の家に住んでいる幼なじみ。

いつまでもガキンチョだと思っていたのに

もうコイツも20歳。
見た目は、すっかり大人へと変わっていた。

『なぁ、お前…どーせヒマだろ?
だったらちょっと付き合ってよ。』

『・・・・・どこ行くのよ。』

確かに今は長いヒマがあるが、
何でコイツが知ってんだろう。



大学を卒業して、私は就職した。
コイツも高卒で裏会の仕事をしだしたから
稼働時間が全く正反対な私たちは、久しぶりの再会だった。

『てか、いきなりなんなのよ。
アンタは相変わらず気紛れだね。』

『別に気紛れじゃないよ。
ちょっと気分転換したくてさ。
んで、たまたまお前がヒマだって…』

『ヒマだけど、アンタに付き合うヒマはない。』

『・・・・・・・・・・。』

ピシッと言い返した時音に、ムッスリと口を閉ざしてしまうのは相変わらずだ。
そうだ。そういや、こんな顔した後って、たいてい実力行使に出るんだ…

…と思い出した時には、既に私は良守の肩に担ぎ上げられていた。



『いやーっ!!
人さらい〜っ!!』

『うるせぇ。人聞きワリーこと叫ぶな。』

『だったら下ろしなさいよっ!!』

『ヤダね。時音、パスポート。』

『パスポート!?』

ホントなんなのよ!?
意味分かんないっ。

思いきりジタバタ暴れているのに、
彼の拘束からは逃げられないのが
力の差を見せつけられているようで
悔しくなる。

『持ってんだろ?』

『持ってるけど…。』

『お前の部屋か?』

『机の引き出しに…』

スタスタと部屋に入り、私のパスポートを手にした良守は、私を担ぎ上げたまま外に出て、空へと結界を繰り出すのだった。










――――――――でだ。
私は何故か、いま空港ロビーのソファーに1人ちょこんと座らされている。



目の前の大きな窓からは何機もの飛行機が見える。
ザワザワと騒がしいロビーでは、今から旅行にお出かけなのか、スーツケースやら大きなバッグを手に談笑している団体があちこちにいる。



(…で?私は何をしてるんだ?)



自問自答は単に精神を落ち着かせる為だ。

だって良守と久々の再会してからまだ1時間くらいしか経ってないのに、あれよあれよと
言う間に私は空港にいるのだから。
何がなんだかサッパリ頭が付いてこないし、考える気力もない。
アイツの突飛な行動には慣れている。
いつも思い付きで即行動するヤツだから
熟考型の時音には理解不能、奇想天外。
まぁ理解したところで良守を止める事は
不可能だし、考えるだけ無駄なのは分かっている。



―――ああ…なんだか懐かしいなぁ…



まだ家業のお勤めがあった頃、私はこうして、よく良守に振り回されてきた。
かなり疲れるが嫌だと思ったことはない。
アイツがムチャな事しないように、私が見張ってなきゃと思って傍にいたあの頃から、もう何年もの月日が経っていた。
今やあの地はただの神佑地。
毎夜、殺伐とした戦いの日々があったのはもう昔のことだ。



そう思えば懐かしい感覚なのだ。



ロビーに音声案内が流される。
団体客がぞろぞろと移動しだした。
どうするんだろ…と思っていたら
やっと良守が戻ってきた。

『時音、行くぞ。』

『え…どこに?』

『いいから。早く行こうぜ。』

手を引いてどこかの通路を歩かされる。
そしたらいつの間にか飛行機の中だった。

『時音、こっちだよ。』

良守に手を引かれて、なんか階段を登らされて。
てか、飛行機に階段なんてあったんだ。
キョロキョロしながらもついて行くと、
なんかスッゴい部屋に着いた。

『ねぇ…良守…』

『ん?』

『この飛行機…なんかスゴくない…?』

個室みたいな座席なんて初めて見た。
いや、飛行機なんて一度しか乗ったこと無いけど。
前はもっと狭かったような…

『ま、ファーストクラスだからな。
ほら時音、こっち。』

時音が座らされた座席は、良守との2人部屋みたいな空間だった。

『5時間くらいで着くからさ…』

『ごっ、5時間〜っ!?
アンタいったいどこ行くつもりよっ!!』

『ハワイ。』

『はっ…』

アッサリ言ってのけたな、コイツ…
てか、そんなのちょっとじゃないじゃないっ!!
てゆーか、私フツーに普段着なんですけど!?

カバンひとつ持っていないのに、いきなり連れ出されてハワイだと!?

『アンタねぇーっ!!』

『コラコラ。機内で騒ぐな。
個室とはいえ、防音になってないんだから』

何でコイツはいつもいつもいつもいつもいつもいつもイキナリなんだっ。
てか、なに私もアッサリ良守なんかに浚われてんのよっ。
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