裏会
□その後の2人【2】
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『ああ…疲れた…。』
闇と静寂が戻った山の中。
ひと仕事終えた2人は、背中合わせに地面に座り込んだ。
『時音、大丈夫か?』
『うん、平気。ちょっと疲れたけど…やっぱりこの仕事の方が合ってるってわかったわ…。』
『そっか…あんまそれも喜べねーけどなー…。』
ピッタリとくっついた互いの背中にもたれながら、2人は大きな月を見上げた。
大きな木々の間から、月の光は2人を暖かく照らしてくれている気がした。
『さっき迎えを呼んだから、もうちょっとここで待ってよ?』
『そうね…はー。早くシャワー浴びたい…。』
程なくしてやってきた大きなムカデ妖の背中に乗り、そのまま新居まで送りますよと言ってくれたムカデさんに、ありがたいと息を吐いた時だった。
『…………。』
和かな顔が一変して曇る2人に、ムカデは首をかしげた。
『…良守くん?鳴ってますよ、携帯…』
『………ですよね。』
『出ないんですか?』
『や…なんかやな予感する…。』
ブルブルと震える携帯電話の振動を見つめ、そこに出ていた名前は兄のもの。さっき完了報告はしたのに、またかかって来るなんて嫌な予感しかない。
『まさか、次の依頼じゃないだろうな…。』
『まさか〜。だって頭領に頼まれたんですよ?お二人を新居に送るようにって。』
『だよなっ。無いよなっ。なんたって俺ら新婚初日なんだからー。』
はははーとムカデと笑いあって、携帯に出た良守だったが、数秒もすると怒鳴りだしたのだった。
『だーかーらーっ!!!お前っ、いい加減にしろよーーーーーっ!!』
その怒鳴り声を聞いた時音は、まだなにやら携帯に向かってギャンギャンと喚いている良守を見ながら、もう苦笑いするしかなかったのだった。
ーーーーーーーーで。
いま2人は、とっても辺鄙な村にいた。
すっかり朝陽が光を注ぎ、チュンチュンと可愛い小鳥の声がする。
近くに流れている小川からか、心地のいい水音もした。
『まじか…。』
正守の用件は、やっぱり依頼の話だった。
例によって急ぎだから今すぐ行けと、ムカデに場所を伝えて送り届けさせた。
資料は宿に送っておくと言っていたが…。
『宿ってどこだよ…。』
どこまでも長閑な風景。ぐるっと三方を囲む山。その下に流れる小川の水音が穏やかに響き、あとは田んぼと、ポツポツ建っている民家だけ。宿らしきものは見当たらない。
近くの人に聞いてみようにも、朝早いせいか、誰の姿も確認できない。
『つか、こんなトコで宿屋って…需要ないだろ…。』
『うーん…。なんか…力は感じるけどねぇ…。』
とりあえず止まっていても仕方ないと、その集落の中を歩いてみる。
そこを抜けると、山の麓に目当てのものがあった。
『あ、あれじゃない?』
『あーホントだ。やっぱあるんだ…。』
2人は早速その建物に入り、チェックインをするためにロビーに向かう。
良守が記帳していると、フロントの人がこれまた分厚い紙束を、時音に渡していた。
それから案内された部屋は、なんだか広くて綺麗な和室だった。
『なんか…すっごい部屋じゃない?』
『ああ…なんかさっき、特別室に案内しろとか…言ってたな。』
障子を開けると、集落が一望できる。
中居さんは特に話しをすることもなく、2人ぶんのお茶を入れるとさっさと部屋を後にしてしまった。
時音は早速資料に目を通す。良守は特に何もすることがないので、時音の膝を枕に、畳の上に寝転んだ。
『良守、あんたが一番体力使ったんだから、少し寝てなさい。』
嫌がりもせずに良守の頭を撫でながら、時音の視線は資料を見たままだ。
しばらくそんな彼女を見ていた良守だったが、確かに昨日の仕事の疲れが体に残っている。
おまけに綺麗な手が髪を撫でていくのが気持ちよくて、あっという間に寝入ってしまった。
静かな部屋に、良守の穏やかな寝息だけが響く。
ひと通り資料に目を通した時音は、一息ついてお茶を飲んだ。
『まったく…正守さんも容赦ない…。』
明らかに1人ではできない仕事内容だった。普通なら2人でも足りない。
だが、自分たち2人の力があれば充分だ。
2人の能力をよく知っているからこその、この大きな仕事なんだろう。
それでも期限は5日。1週間海外に滞在して、また5日も宿暮らしだ。
『…家に帰れる日は来るのかしら。』
良守も言っていた。ひっきりなしに正守が依頼をしてくることを。
入籍しようが、2人で帰る家ができようが、夜業入団直後から待った無しに仕事が降りかかっている現状を思うと、なんだかそんなイヤな予感がしてならないのだった。
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