裏会

□その後の2人【2】
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すっかり寝入ってしまっていた良守は、目を開けてすぐに見えた、寝る前となんら変わることなく資料を見ている時音の姿に、少し怪訝に眉をひそめた。

『お前…しょっぱなからあんま飛ばすなよ…。』

『わっ。びっくりしたー。なによ良守、よく眠れた?』

ぐぐうっと体を伸ばしてから、寝返りをうちながら時音の腰に腕を回してそのお腹に顔を埋める。

『んー。このまま離れたくない。』

くぐもった声がしたと思ったら、それがグリグリとお腹に擦り付けられた。

『もう…くすぐったいよ、良守。』

『ふふ。時音の匂いがして安心する。』

『ちょっ、やだっ。まだシャワー浴びてないから汗臭いでしょ?!』

すんすんと鼻を鳴らす良守に、慌てて逃げようともがいてみるが、とうてい彼の力には敵わない。

『全然。時音って…ほんっといい匂いする〜。』

『やっ、やめなさいっ、ばかっ!』

必死にもがいて良守から離れたら、昨晩よりも遥かに体力を消耗した気がした。

『もー。あんたいい加減にしなさいよね。はー疲れた…。』

『疲れたんなら一緒に寝よ?ほら、こっちおいで?』

寝転んだままコイコイと手招きする良守を軽く睨むが、確かに昨晩からの疲れは、そろそろピークを迎えている。
着替えもシャワーもしたいけど、それよりも睡魔が勝っている。良守の胸板の上にうつ伏せになると、ぎゅうっと抱き込まれて腕枕された。

『ふわぁ……やっぱりここ…きもちい…。』

言い終わる前にあっけなく意識が薄れていった。

『ふふ。可愛いなぁー俺の時音は…。』

幸せそうに笑った良守は、もうすくすくと可愛い寝息を立てる時音の身体の感触を堪能しながら、また眠りに落ちた。




ーーーーーーそれから数時間後。

すっかり頭もスッキリした頃、程良く昼食が運ばれて来た。部屋の座卓に並べられた豪華な昼食をすっかり平らげ、さらに時音は別注で頼んだデザートもしっかり食べ終えて、満足げに息をついた。

食後のお茶を飲みながら、そんな彼女を見つめる良守の顔が、少しウンザリしているように見える。

『む。何よ、その顔は。』

『や…お前見てたら胸焼けするな、と。』

『ひっどーい。』

本当に時音はよく食べる。
良守も少食ではないが、時音ほどは食べられない。
おまけに高燃費な時音は、1日に何度も食べる。なのにスレンダーな体型を保っているのが非常に不思議だ。

『俺はなー、お前が腹壊さないか心配なんだよぅ…。』

『ふふ〜。全然平気だよー。ああ、でもね…こんなに食べるの、あんたに再会してからよ?』

正確には1週間前、強引な良守にさらわれて、彼への気持ちに気付いた後だ。
それまでは、今ほど食に興味はなかった。生きるために必要だと、ただ栄養を摂取していただけの行為だった。
それが良守と一緒にいるだけで、それが美味しいと感じるようになったのだ。

美しいものを美しいと思い、美味しいものは美味しいと言えるようになるなんて、以前は何にも感じなかったのに不思議なものだ。


『ホント…恋したら世界が変わるって、こういうことなんだねぇ。』

ほぅっと溜息をつく時音に、良守は鼓動が早くなったのを感じた。
それは良守も同じだった。感情も、視覚も、味覚まで失っていたこの数年。
なんで生きているのか分からずに、ただ淡々と妖を狩り続けてはその穴を埋めようとしていた。

時音も同じように思っていたことが嬉しくて、ちょっと泣きそうになってしまった。

昼食も終わり、良守が窓の外の景色を見ながら、さて次は何をしようかと思っていたら、時音は館内の案内図を見ていた。

『ねー、良守。ここって温泉地みたいだね。大浴場に行ってみたい〜。』

『部屋にも風呂、ついてるけど?』

『えー。やっぱり旅館といったら大浴場でしょ。』

『…俺は部屋の風呂で、時音と一緒に入りたい。』

『………ヘンなことしそーだからヤダ。』

ニヤニヤする良守に正確に反応した時音はぷいっと横を向く。
やっぱりニヤニヤしながら時音に近づいてきた良守に、敏感に反応して部屋の隅に逃げる。

『や…ちょ、近寄んじゃないわよ…や、良守…やだってば…んんーっ。』

簡単に彼に捕まった時音は、すぐさま唇を塞がれた。気道が舌で塞がれて、息ができなくて涙ぐむ。

『んーっ、んんっ…んぁっ…は、はぁ、はぁ…』

強引に唇を離し、やっと息ができたが酸欠でクラクラする。しかも良守はまだ時音を抱く腕の力は抜いていない。
間近に見える良守の顔を、涙ぐんだ瞳で睨みつけるが、そんなのただ良守を煽るだけだ。

『可愛い顔、時音…愛してる。』

もう一度唇が塞がれる。繰り返される濃厚なキスに、だんだん腰の力が入らなくなってきた。
落ちそうになってとっさにしがみついた良守の身体は、すっかり熱を持っていた。




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