裏会
□その後の2人【2】
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ーーーーーー部屋に置いてある電話の音で目が覚めた。
良守はまだ自分の腕の中で眠っている時音の頬にキスを落とし、それから起き上がった。
電話はフロントからだった。荷物が届いているらしい。
その横に置いてある時計は、3時を指していた。
ふと外を見るとまだ明るい。
長く眠ったように思ったが、まだ1時間も経っていなかった。
とりあえず荷物を取りに行かなければ、と良守は羽織を脱いで、まだ深い眠りについている時音にそっとかけた。
やっと時音が目を覚ましたのは、それから一時間後だった。
それからフロントに届いていた荷物を見下ろし、2人は顔を見合わせた。
『…なんか…見覚えある光景だな…。』
『そうね…こないだ見たとこだもんね…。』
送り状には正守の名前が記されている。箱の大きさもこの前と同じ。
発送日は今日だったけど、それ以外は何も変わってない。
2人は箱を開け、中を確かめてみる。
『あら、今回もありがたいわ〜。』
中身は2人の衣類だった。
予備の装束に、普段着から下着、靴に至るまで、時音にしたらものすごくありがたい品々ばかりだった。
『さすが正守さん。相変わらず抜け目ないわ〜。』
嬉しそうに笑う時音とは反対に、良守はなぜか不機嫌のまま横を向いていた。
『…良守?』
なんだろう。珍しく怖い顔してる。
『なんでそんな顔…』
『そんなにあいつが好きなのかよ。』
『は???』
『お前って昔から正守のこと、好きだったもんな。』
ぷいっと横を向いたまま、どんどん良守の顔が不機嫌になる。声も恐ろしく低くて、怒りもあらわになっていた。
『え、え…良守…まさか…』
え、嫉妬?嫉妬なの?!
そんな口尖らせて、もしかして拗ねてるの?!
時音の口元に笑みが浮かぶ。
だって嬉しい気持ちが隠せない。
こんなに独占欲剥き出しにしている良守が可愛くて愛しくてたまらない。
すっかり大人っぽい容姿になったのに、こんな所は変わってない。
あまりに嬉しくなって思わず良守に抱きついた。
『っな、なんだよっ。俺、怒ってんだけど?!』
『んふふ〜。あんたってホント、可愛いっ。大好きよ〜っ。』
『かっ…可愛い言うな…。』
小さく呟く声がまた拗ねてて可愛い。
でも時音が強く抱きしめて頬ずりするたびに、単純な良守は機嫌を戻していったのだった。
大浴場で温泉を堪能して、やっとサッパリした時音は、にこにこ上機嫌で脱衣所に戻る。
正守から送ってもらった衣服を着ようと、下着を取り出して固まった。
『こっ…これって、ちょっと…』
ピラッとしたレースがたくさん付いた真っ白な下着。可愛いけど…
『面積小さくないっ?!』
オマケに両端には同じレースの紐がついていた。
こんなの良守にバレたら…
一気に顔が赤面する。ぼふっと音がするほど勢いよく。
どうしよう…自分のをもう一度履くのも絶対イヤだ。
『ま、いいか…別に見せて歩くわけじゃないものね。』
せっかく気を利かせて送ってくれた品々に、これ以上文句を言ったら失礼だ。部屋に戻ったら他にマシな物はないか探そう。
さっさと着替えて部屋に戻ると、良守はもうそこにいた。
窓を開けて、そのふちに腰掛けて外を眺めながら夜風に当たっていた。
時音が戻ってきたのに気づいて、くるっと振り返った瞬間、良守の眉が不機嫌に寄った。
『だから…その服、短えってば。』
可愛いピンクのパーカーとパンツ。
そのパンツは三分丈以上に短い。
『お前〜。ここに来るまで誰にも出会わなかっただろうな…。』
『へ?そんなわけないでしょ、バカね。』
ここは辺鄙だが観光地。
しかも世間では連休だ。
大浴場もよく混んでいた。
『あは。あんなにいっぱい人がいるのに、誰も私なんか見ないわよ〜。』
相変わらずバカねと呑気に笑う時音に、今度こそ言ってやった。
『はーっ。バカはお前だっ!もうお前、その格好で外出禁止だっ!』
くっそ〜。正守のやつっ!
絶対あいつ、ワザとこんなの送ってきたんだ!
悔しがる良守を嘲笑う正守の姿が目に浮かぶ。
あのヤロー、ぜってー文句言ってやる!
ゴゴゴと怒りのオーラを噴き出している良守をよそに、時音はやれやれと息を吐いて座椅子に座る。
まったく何を考えてんのか知らないけど、今の時代、こんなの全然珍しくもない。もっとスゴイのも居たんだから。
なにやら携帯に向かってギャンギャンと文句を言いだした良守はほっといて、時音はまた、資料を眺めては仕事の段取りを考えていくのだった。
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