裏会

□その後の2人【2】
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今日はとりあえず下見に行こうと、2人は装束に着替えて夜闇の中に結界を繰り出していた。


上空から村を眺め下ろし、不審な力を出している場所を探すのだ。



最近、パワースポットというものが流行っているらしい。
力を持っている土地に行き、そのエネルギーにあやかろうと、多くの人がこの辺鄙な地に訪れているらしい。
確かにここは、神祐地や森の木々、大きな岩など、力を持っているものが多数存在している。
ただ、何も知らずに観光気分で、礼儀もわきまえずにこの地を踏み荒す輩が増えたため、その力が怒って変形しだしたのだろう。
本来は近付けないはずの妖や魑魅魍魎が、この地に集まりだして観光客を狙って悪さをしているらしい。もう多くの人間が拐われて、消えていた。
今のこのネット社会。そんな噂はあっという間に面白おかしく拡散されてしまう。

依頼主はそれを危惧した、あの旅館のオーナーだった。
どうりであんないい部屋を用意してくれるはずだ。

とりあえず今日は、この村の巡回と討伐箇所の特定。本格的に動くのは明日からにするつもりだ。

ちょうど村の中心あたりで結界を止めた。辺りを見渡してみるが、今の所まだ気配は感じられない。
そして小さい集落といえどやはり2人では範囲が広すぎる。

『良守、やっぱり手分けしよう。あんたは向こうから…』

『やだよっ。お前をひとりにはぜってーしない。』

部屋で今日の段取りを話していた時から、もう何度も同じ問答を続けている。どう考えても手分けする方が効率がいいのに、時音を1人にできないと、頑としてそれを受け入れない良守も一歩も引かなかった。
行ってみれば分かるだろうとここまで来たが、やはり良守の考えは変わらないらしい。

小さく嘆息した時音は、悲しげな顔を作って良守を見つめる。

『なっ、なんだよ…そんな顔したってダメだからな。』

『…良守は…よっぽど私のこと信頼してないのね…。』

ウルウルと瞳を揺らす時音にとたんに怯んでぐっと詰まる。

『そうよね…私、烏森でもあんたに守ってばっかりだったし…完全に足手まといだったもんね…。』

『ちがっ、そんなことないっ。』

『だって良守はいっつも私の代わりに危険を冒してたじゃないっ。』

『当たり前だろっ!!』

力いっぱい時音を抱きしめた良守は、その耳元で苦しげに囁く。

『そんなん当たり前だろ…大事な人が…お前が危険な目に遭うのを…黙って見てられるわけ…ないだろ…』

苦しいほどに抱き締められる。その腕はふるふると震えていた。

『時音がそばにいるから…俺は全力で戦えたんだ…。お前を失うのが…何より怖いんだよ…。』

時音がひとりで敵地に向かうたび、彼は強大な力を発揮して私を守ろうと奔走していた。その気持ちが大きすぎて、少し怖いと感じていたのも昔の話。

『…わかってる、時音が言うやり方の方が効率がいいって…そんなん俺だって分かってる…けど、簡単に頷けるほど…俺、強くないっ。』

どうしよう。良守の気持ちが痛いほどに伝わる。そしてそれほど自分が想われていることに、隠しようのない喜びが湧き上がる。

『わかったよ…もう、わかったから…。』

震える腕を癒すように、時音はポンポンと優しく叩く。

『だったら良守。あんたの式神、一体ちょうだい?』

『んなっ?!』

だからって私も引かない。
だって期限は5日しかないのだ。
期限を伸ばせば報酬も交渉しづらくなる。
なんたって私たちの生活がかかってんだからっ。

『良守の式神と一緒ならいいでしょ?私が危なくなっても、すぐに察知できるでしょう?』

『…………』

我ながらいい案だと思う。
効率良い方法で仕事ができる。
私を監視しながら良守も仕事できる。
危険な時に離れていても、しばらくなら式神が対応できる。

まさにいいことづくめだ。

『なにかあったら、良守が全力で助けに来てくれるんでしょ?』

にっこりと微笑む時音は、良守が息を呑むほどに美しかった。
その魔力は良守を惹きつけて離さない。
あんなに頑として反対していた良守だったが、もうあっさりと頷くしかないのだった。




結局、時音の目論見通り、二手に分かれて巡回を続けることになった。



『やれやれ。ホント…相変わらずメンドくさい奴よねぇ…。』



最後のあがきなのか、良守は式神を出す代わりの条件を提示してきたのだ。



【何もなくても、1時間に一回は状況報告のために最初の地点に戻ること。】



それでも思い通りの流れになった事に安堵した時音は、良守の姿をした式神を連れて、深い夜闇に身を隠していくのだった。









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