裏会

□その後の2人【2】
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ーーーーーーそろそろ夜が明けそうだ。



空が白明けて闇が姿を隠す頃、2人は最後の状況を報告するために顔を合わせた。

『何箇所あった?』

『こっちは14箇所。そっちは?』

『…18箇所。』

お互いの報告を聞きた後、2人はウンザリと息を吐いて背中を合わせた。
そのままズルズルと座り込み、互いの背中にもたれ合う。

『やべ…帰りてぇ…。』

『言うな、良守。やる気なくす…。』

2人同時に大きな大きなため息が出る。
さすがに観光客が集まるこの場所。
人気通りで力場が多い。

『くっそ〜…ちっせー村だと思って侮ってだぜ…。』

そのうえ、強い力を持っている場所も多かった。

合わせて32箇所もある力場を、あと4日のうちに、たった2人で片付けなければならない現実は、かなり厳しい。

『良守の方は被害者でた?』

『…いっぱいいたぞ。』

やはりか。時音の方も、ひとつの力場につき、もれなく数人が引き寄せられていた。
見えた妖はその場で消したが、溢れている力を封じないと今晩も湧いて出てくるはずだ。

『とにかく、いったん部屋に戻ろう、時音。』

『そうね。お腹すいたし…』

グルグルと時音のお腹が騒がしい。

『ぷ…時音らしいなー。』

一晩寝ていないのだから、良守なんか先に睡魔が襲ってきているのに、時音はそれよりも食欲らしい。

『…それだけ今が、充実してるってことよっ。』

『はいはい。じゃあ、戻ろ。』

自然な動作で時音を横抱きに持ち上げ、それを当然のように良守に体重を預ける。

『重たくない?』

『んーちょっと軽過ぎ。ホントお前って…あんだけ食ったもんはどこに消えたんだろーなー。』

マジで感心する…と小さく呟く良守は、また結界を繰り出して部屋に戻ったのだった。






時音はまた大浴場で朝風呂を楽しんでいた。ここの温泉は本当に気持ちいい。土地の力がお湯を伝って染み込んで来るのだ。
一晩中、力場巡りで掛け走って、ついでに妖退治もした身体は、やっぱり疲労を感じていたが、このお湯に浸かるとそれが流れ出ていく。

『はぁー。まさに神様のご加護ねぇ。』

ここの神祐地の力が、それだけ大きいのだろう。それだけに不思議だ。
なぜあんなに妖を集めているのだろうか。
怒って変形したのなら、この土地への加護も途絶えるはずだ。なのに村の風景は綺麗で力が漲っている。

『やっぱり先に、そこの調査に行かなきゃだめよね…。』

やれやれ、この4日間は寝る暇などなくなりそうだ。
また長いため息をついた時音は、そろそろ本当に限界のお腹を満たすために部屋に戻っていった。


部屋に戻ると、すでに朝食が運ばれてきていた。

ちなみに良守はすでに布団の上で爆睡していた。時音をここまで運んだ後、ばったりと布団に倒れこんで、あっという間に寝息を立ててしまった。
部屋には朝食のいい香りが充満しているのに、身動ぎひとつせずに熟睡しているところを見ると、てこでもその睡魔を手放す気は無いらしい。
時音はそんな彼を放置して、さっさと自分だけ朝食を堪能した。

すっかりお腹も満たされて、やることもなくなった時音は、正守からの荷物をごそごそと物色する。

『うーん…やっぱり面積小さいのばっかり〜…。』

ましな下着は一枚もなかった。
おまけにそこに入っていた服は、どれもこれも良守が眉を逆立てそうなものばかり。だが、可愛いデザインのその服は、時音にしたら嬉しいものばかりだった。

どうせ良守はしばらく起きてこないだろう。

時音はさっそくその服に着替えて外出準備を整えると、すぐ戻る旨を書き置きして部屋を出た。


この周(あまね)村の神祐地は、宿屋からそう遠くない山の中にあった。一見、神社のようなそこは、しんと静まり返っている。
古びた石造りの鳥居を抜け、その奥に鎮座しているお社の前に立つ。

だがそこに、気配を感じることはできなかった。

『周様…いらっしゃいませんか…?』

そっとお社に向かって問いかけるも、やはり状況は変わらない。

どうしたものかと屋根を見上げて、そのまま目を見開いた。

『まさか…アレなの…?』

屋根の上に若い青年の形をしたものが座っている。長めの髪を無造作に一つ括りにして、男物の着流しを着ていた。
瓦の上に足を投げ出し、後ろ手をついて空を見上げている。

『周…様…?』

問いかけは聞こえていないようだ。
だがあれがここの土地神に違いないと確信できるほどの力は感じる。
何をしているのかと見ていても、いっこうに動く気配はない。
なんだかぼーっと無気力に口を開けたまま空を眺めていた。

時音は式符を取り出して、白い鳥型の式神を出す。それからそれに、良守を呼んで来るようにと命じて、また屋根の上に視線を戻したのだった。






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