裏会
□その後の2人【3】
2ページ/18ページ
ーーー今回の依頼は、まさにこの旅館に多数出現する霊退治とその調査だった。
絶景が眺望できる豪華な旅館、だけど度重なる幽霊騒ぎに客足は激減。
霊媒師やら祓い屋やら、ありとあらゆるツテを使って呼び寄せるも効果なし。
『効果なし〜?え、全くダメだったのか?』
ここまで資料を2人で読みながら、良守が思わず声を上げる。
『それって…ニセモノつかまされたんじゃ…』
苦笑いを浮かべながら時音が先を読み進めて、それから納得したように良守を見た。
『ここに来た霊能者が12人。うち6人は偽物ね。』
『…あとの6人は?』
『消息不明。』
『おお〜。霊能者あるあるだなっ。』
なんだか嬉しそうに言う良守は放っといて、時音はまた資料に視線を戻した。
さすがに夜行の資料だけあって、よく調べてある。
消息不明の6人の中には、裏会関係者の名前が並んでいた。しかも最後の不明者は夜行の諜報班員だった。
どうやら力があるものが近づくと消されているようだ。
『正守さん…裏会から押し付けられたのかもねぇ…気の毒に。』
『あ?それを俺らにスルッと押し付けたんだから同罪だろーがよ。』
ケッと苦い顔をする良守だが、この資料は裏会に宛てた調査書だった。作成者は正守らしい。まぁ、調べたのは諜報班だろうが。
つまりはここを初めに調べたのは夜行で、この調査者には裏会の力を借りたいとの嘆願も含まれていた。
それを良守に話してやると、途端にぶすっと顔を歪めた。
『つまりはなにか、裏会から再び押し付けられたって事か…けっ、普段エラそーにしてるクセに…てめーの身は削りたくないってか。』
ムカつく。ハッキリそう口が動いた。
何かと裏会から疎まれていた夜行だが、体制が変わっても相変わらずらしい。
『ったくよー。それならそうと兄貴も説明しろよ。』
『あんたがギャンギャン言うから、言い出せなかったんでしょーよ。』
依頼の電話に思い切り噛み付いていた良守だ。あの剣幕なら、正守が言い出せなかったのも頷ける話だ。
やれやれ、やっぱり気の毒に…と、時音は溜息を隠すように湯呑みに口をつけたのだった。
ーーー深み闇が辺りを包み込む。
2人は辺りを警戒しながら、旅館の中を歩いていた。
お風呂場での件を良守に話したら、彼は違うところから気配を感じたと言うのだ。だから始めにそこを調査することにした。
怪現象が頻発してから、客足どころかスタッフまでも居なくなってしまったと、オーナーは言っていた。
だからなのか、異様な静けさが2人を緊張させる。
『なんかさ、夜の学校みたいだよな。』
『…そうね。なんか覚えのある光景だと思ったわ。』
不思議と不安はなかった。
お風呂場と違い、完全武装しているのも理由だが、やっぱり良守が側に居るのが最も大きな理由だろう。
あの怖さは、良守が居ないという不安しか感じていなかったのだから。
天穴を持ち替えて、良守と手を繋ぐ。
すぐにぎゅっと握り返してくれる良守から、温かい力が注がれてホッとする。
『ふふ。良守の手、あったかいね。』
『ああ、だって時音への愛情が熱いからなっ。』
『ぷっ。ばーか。』
『なっ、ひでぇ…。』
緊迫した館内なのに2人は呑気に笑い合う。互いが側にいるだけで、言いようのない力が漲るのを感じていた。
ーーーーーーズズッとなにかを引き摺る音がする。
『きたっ、良守。そこっ!』
『ほいよっ。』
相変わらずの瞬発力で、強い結界が霊体を囲む。それから速攻滅しては天穴に吸い込ませていく。
あれから何体もこうして滅しては吸い込んでいるのだが、次から次に現れるそれに、そろそろ嫌気がさしてきた。
『まだ終わんねーのかよー。』
『んー、まだね。こっちに気配がする。』
ウンザリする表情を惜しみなく浮かべる良守だったが、それを不真面目だと叱れないのは、時音も同じ気持ちだったからだ。
『いったいなんなの、烏森より厄介じゃない?』
『そーだろ?やっぱ時音もそー思うよな。』
妖に比べて、それよりも弱い霊体だから、囲むのも滅するのもさほど力を使わず簡単だ。だけど数が多過ぎる。
『あーもーっ、メンドくせぇーっ。』
『…ホント、なんでこんなに集まってるのかしら。』
『巣でもあんじゃね?』
『……………ばか。』
あってたまるか、そんなメンドくさいもの。
ふと2人の足が止まる。
『感じたか、時音?』
『もちろん。』
そこはやっぱり大浴場だった。
時音はそっと扉に手を触れて、中の様子を探る。どうやらそこには霊体が多数ウロウロしているようだ。
『…良守、行くよ。』
『おぅ。いつでもいーぞ。』
思い切り扉を開く。その瞬間、中の霊体全部に結界が囲った。