裏会

□その後の2人【3】
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ーーー今回の依頼は、まさにこの旅館に多数出現する霊退治とその調査だった。



絶景が眺望できる豪華な旅館、だけど度重なる幽霊騒ぎに客足は激減。
霊媒師やら祓い屋やら、ありとあらゆるツテを使って呼び寄せるも効果なし。

『効果なし〜?え、全くダメだったのか?』

ここまで資料を2人で読みながら、良守が思わず声を上げる。

『それって…ニセモノつかまされたんじゃ…』

苦笑いを浮かべながら時音が先を読み進めて、それから納得したように良守を見た。

『ここに来た霊能者が12人。うち6人は偽物ね。』

『…あとの6人は?』

『消息不明。』

『おお〜。霊能者あるあるだなっ。』

なんだか嬉しそうに言う良守は放っといて、時音はまた資料に視線を戻した。
さすがに夜行の資料だけあって、よく調べてある。
消息不明の6人の中には、裏会関係者の名前が並んでいた。しかも最後の不明者は夜行の諜報班員だった。
どうやら力があるものが近づくと消されているようだ。

『正守さん…裏会から押し付けられたのかもねぇ…気の毒に。』

『あ?それを俺らにスルッと押し付けたんだから同罪だろーがよ。』

ケッと苦い顔をする良守だが、この資料は裏会に宛てた調査書だった。作成者は正守らしい。まぁ、調べたのは諜報班だろうが。
つまりはここを初めに調べたのは夜行で、この調査者には裏会の力を借りたいとの嘆願も含まれていた。

それを良守に話してやると、途端にぶすっと顔を歪めた。

『つまりはなにか、裏会から再び押し付けられたって事か…けっ、普段エラそーにしてるクセに…てめーの身は削りたくないってか。』

ムカつく。ハッキリそう口が動いた。
何かと裏会から疎まれていた夜行だが、体制が変わっても相変わらずらしい。

『ったくよー。それならそうと兄貴も説明しろよ。』

『あんたがギャンギャン言うから、言い出せなかったんでしょーよ。』

依頼の電話に思い切り噛み付いていた良守だ。あの剣幕なら、正守が言い出せなかったのも頷ける話だ。
やれやれ、やっぱり気の毒に…と、時音は溜息を隠すように湯呑みに口をつけたのだった。





ーーー深み闇が辺りを包み込む。
2人は辺りを警戒しながら、旅館の中を歩いていた。

お風呂場での件を良守に話したら、彼は違うところから気配を感じたと言うのだ。だから始めにそこを調査することにした。
怪現象が頻発してから、客足どころかスタッフまでも居なくなってしまったと、オーナーは言っていた。
だからなのか、異様な静けさが2人を緊張させる。

『なんかさ、夜の学校みたいだよな。』

『…そうね。なんか覚えのある光景だと思ったわ。』

不思議と不安はなかった。
お風呂場と違い、完全武装しているのも理由だが、やっぱり良守が側に居るのが最も大きな理由だろう。
あの怖さは、良守が居ないという不安しか感じていなかったのだから。
天穴を持ち替えて、良守と手を繋ぐ。
すぐにぎゅっと握り返してくれる良守から、温かい力が注がれてホッとする。

『ふふ。良守の手、あったかいね。』

『ああ、だって時音への愛情が熱いからなっ。』

『ぷっ。ばーか。』

『なっ、ひでぇ…。』

緊迫した館内なのに2人は呑気に笑い合う。互いが側にいるだけで、言いようのない力が漲るのを感じていた。





ーーーーーーズズッとなにかを引き摺る音がする。

『きたっ、良守。そこっ!』

『ほいよっ。』

相変わらずの瞬発力で、強い結界が霊体を囲む。それから速攻滅しては天穴に吸い込ませていく。

あれから何体もこうして滅しては吸い込んでいるのだが、次から次に現れるそれに、そろそろ嫌気がさしてきた。

『まだ終わんねーのかよー。』

『んー、まだね。こっちに気配がする。』

ウンザリする表情を惜しみなく浮かべる良守だったが、それを不真面目だと叱れないのは、時音も同じ気持ちだったからだ。

『いったいなんなの、烏森より厄介じゃない?』

『そーだろ?やっぱ時音もそー思うよな。』

妖に比べて、それよりも弱い霊体だから、囲むのも滅するのもさほど力を使わず簡単だ。だけど数が多過ぎる。

『あーもーっ、メンドくせぇーっ。』

『…ホント、なんでこんなに集まってるのかしら。』

『巣でもあんじゃね?』

『……………ばか。』

あってたまるか、そんなメンドくさいもの。

ふと2人の足が止まる。

『感じたか、時音?』

『もちろん。』

そこはやっぱり大浴場だった。

時音はそっと扉に手を触れて、中の様子を探る。どうやらそこには霊体が多数ウロウロしているようだ。

『…良守、行くよ。』

『おぅ。いつでもいーぞ。』

思い切り扉を開く。その瞬間、中の霊体全部に結界が囲った。
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