裏会
□その後の2人【6】
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取り敢えず日も暮れてきたことだし、今日はこの辺で終いにしようとひと段落した2人は、里に降りて拠点にしている旅館の部屋でグッタリと座敷机の上で頭を付けていた。
『疲れた…時音じゃないけど、腹減った…。』
『うう…お腹空きすぎて…もう動けないよぅ…。』
声を出す力もなく、本当に体力を使い果たしてしまった時音は、それこそ良守が支えてやらないとふらふらして歩けなかったのだ。
たかが山歩きと思っていたが、なにせ名所が多すぎる。幾多ものコースの中から、まだ1本目しか制覇していないのだ。しかも夜になったらあれを封じて回らないといけない。
『なんでこんなに多いんだ…つか、なんで妖があんなに集まってんだよ…。』
観光名所に妖は付き物だというのは定説だが、やっぱりここは通常より多くの妖が湧いて出てきているのだ。
これは考えなくとも、どこかに引き寄せる磁力があるということだ。
大元を叩けば少しはマシになるだろうが、残念ながら1本目にはそれが無かった。
『くっそー…この山デカすぎんだよ。』
苛立ちも露わな良守のその悪態も、時音は黙って聞くしかない。だって本当に範囲が広すぎるのだ。
良守が探索用に放った幾多もの鳥型式神でさえも、今日は見つけることができなかったのだ。
昼間は比較的、妖の数が治るから、そのうちに印を付けて一気に夜で片付けるという計画は、やっぱり無理があったのだろうか。力の弱まっている昼間は、当然その大元だって眠りについているはずだから。
『ああ…もう、考えが纏まらない…。』
じっくり考えるには、とにかく空腹を訴えるこの煩いお腹をなんとかしなければ。
そう思っていたら、ようやく部屋に夕食が運ばれてきた。
それを見ただけで元気を取り戻した時音に、良守は思わず笑ってしまう。
そんな良守にキッと睨んで黙らせた時音は、目の前の豪勢な夕食をすごい勢いで片付けていった。
2人とも、家柄的に幼い頃から礼儀作法は厳しく躾けられているから、食べ方は非常に綺麗なのだが、なぜか良守よりも食べる早さが尋常ではない時音は、良守はいつも感心して見てしまう。
それにしても、今日もよく食べた時音は、まだなんだか物足りなさそうだ。
『え…まさか、まだ足りないのか?』
『ん〜…なんかね、満足した気がしない。』
ここの旅館も前々回同様、料理の量がビックリするほど多いというのに。
良守なんか、空腹ではあったがそれでも三分の一ほどは入らない。
『そのちっさい身体に、いったい何人ぶんの腹がついてんだろな…ふふっ、やっぱすげぇな、感心する。』
なにやら時音からすっごい睨まれているが、押さえきれない可笑しさがこみ上げてきて、思い切り笑ってしまった。
『もうっ。そんなに笑わなくてもいいでしょっ?だって前回、そんなに私、食べてないもん。』
そうなのだ。何度かその光景を見てきて、良守もうっすら分かってきたのだが、時音は仕事に集中してくると、驚くほどに食べなくなるし、佳境に入って来る頃には、それに加えて眠らないのだ。
それほどの集中力なのだという事だが、やっぱり食欲以上に異常に見えて仕方がない。
『まぁ…必要分は、ちゃんと良守からもらってるしね。』
『へ?俺?』
不思議そうに首を傾げる良守に、少し吹き出した時音は、その膝にまたがって抱き着いた。
そして、わざわざその耳元で、甘い声で囁くのだ。
『ふふっ。良守とえっちして、力を貰ってるのよ、私…。』
ぞわっと背筋に痺れが走る。
耳朶や首筋に吸い付く時音は、いつも以上に甘くていやらしく見えた。
『良守がいっぱい私を愛してくれるから、いつもお腹いっぱいだし、疲労も全部、良守が消してくれてるの。』
まるで妖じみた事を囁く時音が、良守の中の何かに火をつける。
ぼうっと燃え上がるそれは、時音だけが灯せる、熱くて甘くて激しい揺らぎ。
『やっぱ俺から力、吸い取ってたんじゃん…』
『ふふっ。だから最初から言ってるでしょ…良守って、気持ちいいって…。』
『ああ、なるほど…じゃあ、その物足りないの…今から俺で満たしてもいいか?』
『いいよ、だからこうして誘ってるのに…あんたってホント…鈍感…』
時音の背中を畳に押し付け、上から覆い被さって抱き締める。
深いキスから始まって、その綺麗な身体を存分に愛撫して、時音の中に侵入していく。
『あん…今日も…熱い、良守でいっぱい…気持ちいい…』
『またそんな可愛い声出して…立てなくなるまでやっちゃうよ?』
『して…いっぱい、私の奥を…良守で満たして…』
あとは満足した時音が意識を失うまで、良守は全身で時音を好き放題、抱き尽くすのだ。
この魔性溢れた綺麗な人を、自分の熱い迸りで、ドロドロに汚してしまうまで。
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