裏会

□その後の2人【6】
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すっかり辺りも闇に落ちて、静寂が部屋を包み込む頃。



場所を変えて床間の布団の上で、2人はまだ肌を触れ合わせていた。
時音を組み敷いてその姿を見下ろす良守の、頬を伝ってぽたぽたと汗の粒がそこに落ちる。

『はー…はー…時音、そろそろ満腹になったか?』

『っふ、ん…ん…もう…とっくに…』

中を迸るその熱に、同時に達した時音もまだひくひくと身体を揺らしている。
頬を紅潮させて、陶酔の瞳をゆらゆらと揺らして、それでも笑んだその唇から、甘い吐息が絶えずはふはふと漏れている。
堪らない。こんなに乱れに淫らな時音の姿は、まだ良守を誘うのだ。
尽きない情熱と情欲が、良守の全身を支配しようと襲い掛かる。
魔性…。そんな時音をもう何度見てきただろうか。
頭がおかしくなる。このまま時音に呑み込まれて、その清らかな陶酔に自分が溶けて消えていったとしても、それはこの上ない喜びと幸せに満ち溢れる事だろう。

『愛してるよ、時音…簡単に俺を呑み込んでしまえるのは…時音だけだ。』

『そんなの当たり前でしょう?良守を愛する気持ちなら、私は誰にも負けてる気がしないもの。』

深い口付けは愛情の交換と、互いを縛る甘い契約。
時音の身体を割り裂いて、また激しい欲情をぶつけていく。何度も何度も時音にそれをぶつけて迸りを注いでも、いやその度に彼女は神々しい美しさを溢れさせていくのだった。





ーーーーーようやく繋がりを解いたのは、もう部屋の時計が丑満時をさす頃だった。

そろそろ仕事に取りかかる時間だと、2人は装束を身に纏って窓から外に出て行った。

結界を繰り出して昼間に印を付けた山へと向かったのだ。
だが、1つ目の印を見た瞬間、良守の眉が不機嫌に逆立った。

『うわぁ…妖で結界が埋まってる…』

そう。そこには夥しい数の妖が、結界の中に入ろうと群がっていたのだ。

『チッ。どこから湧いてきたんだ、コイツら。これじゃ、封じるなんてムリだ。』

とりあえずこの魑魅魍魎をなんとかしなければならない。夜は封じるだけで済むと簡単に思っていたのに、結局、ここでも妖退治をしなければならないのか。
なんだか見ているだけでドッと疲れが押し寄せてくる。

『おい、居るか。』

『は、主のお側に。』

背後に守良を呼んだ良守は、鳥型式神を沢山出して、静かな声で命令を放った。

『狩れ。こいつらを統率して、お前の思うがままに。』

『かしこまりました。』

すぐに鳥型の先頭に立ち、結界の前に降り立った守良は、夥しく群がる妖を狩っていく。
みるみるうちにその数が減るのが目に見えて、時音は目を丸くした。

『なんか…パワーアップしてない?』

『まぁ…させたからな、今。』

『今っ?!』

力を与えて育てるのが良守の役目だと聞いていた。守良はその力を素直に溜め込んでいるのだろう。
それにしても、さっきまで散々、私が良守から力を奪ったのに、こいつは平気な顔をして立っている。
大丈夫なんだろうか…。
封印に使う力は、妖退治の比ではないというのに。

『大丈夫なの?』

『あ?』

『力…ちょっと返そうか?』

『はっ、馬鹿にすんじゃねぇよ。俺を誰だと思ったんだ。こんくらい、大した力、使わねぇよ。』

なにやら自信満々にそんな事を言う良守だが、どこにどれだけ力が要るのかは時音だって分かっているから、やっぱり心配になる。
不安げに瞳を揺らして良守を見上げる時音に気付いたのか、良守は気を取り直したかのようにため息を一つ漏らして笑顔を作った。

『んな顔するな。無駄な力を使わないように、ああやって式神に狩らせてるんだから、大丈夫だよ。』

時音の肩を優しく抱いて、それから正面に向き合う。まだ不安そうに見つめている時音に、ゆっくり顔を近づけてきた。

『じゃあ、時音のキス…ちょうだい?』

『え…?』

『それが俺の力になるから。』

『…………単純バカ。』

クスクス笑う良守に、最大級に愛のこもったキスをする。
どうか良守が、今夜も無事に仕事を終えます様にと、願いを込めて、優しい口付けを交わすのだった。





ーーーーーようやく全ての封印を終えた良守は、すっかり静かになった頂上付近で、さすがにバテて座り込んでいた。お尻を地につけたまま、足を投げ出した後ろ手に手をついている良守は、天を仰いで情けなく呟く。

『あーーーー…疲れた…。』

『もうっ、だから言ったじゃない!』

ごめん。と言いながらふにゃけた笑顔を浮かべる良守に、時音は見下ろしたまま優しく眉を逆立てた。
それにしても、有言実行にあの数を全てきちんと封印して、ヘバるくらいで済んでいる良守の力はやっぱり破格だ。
改めて感心した時音は、よしよしと優しく良守の頭を撫でたのだった。






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