裏会

□その後の2人【6】
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さて、式神たちは早速調査に向かって行ったし、私たちも時間が許す限りここを歩いて調査しよう。

というわけで、良守を連れ立ってこの広い神社の中にある史跡とやらを見て回る。

人々の澱みを浄化するやら、願いを叶えるやらと言われて点在している岩。
罪を洗い流すと言われている水盤舎。
節操もなくいろんな神様を祀る社。

もう、見ているだけでウンザリする。

『ここに信仰という概念は皆無ね。』

『まぁ…所詮人間の建造物に過ぎないからな。』

古から伝わる神を崇めるものとは違い、人が偶像的に創り出した形だけの広い箱庭。
見れば見るほど不思議でならない。
なぜこんなに人間が集まるのだろう。

『ああ、時音…ここ、パワースポットだ。』

『は?』

良守の手に持たれた携帯画面が、時音の方に向けられる。
どうやらネット上にあがったそれが、口コミとなって広がっているのだ。
コメント欄には、ご利益があっただの、力が漲っただの、病気が快方に向かったとまで書いてあった。

『はぁ…時代なのね、ネット社会。』

『あはは。物凄く人間らしいじゃないか。中身はどうあれ、こうして口コミひとつで右往左往する人の集団…くく…有り触れた話でくだらないねぇ。』

チラッと良守を見上げると、軽口な割にはその顔に、ありありと嘲笑が浮かんでいた。

ああ…この妖しい笑みは黒い割りに綺麗だけど、いつ見ても心の底から冷える思いがするものだ…。

『良守…そんな顔、しないで。』

『ん?』

私が少しでも彼に呼びかければ、その闇は簡単に姿を消すが、笑いかける穏やかな優しい笑みのその裏側には、ドロドロとした闇が蔓延って染み付いていることも知っている。

ああ、やっぱり腹が立つ。
こんな不快な闇なんかに、良守の中を掻き乱されるなんて、冗談じゃない。
早く全てを消し去りたいが、とにかく調査が先だと、時音は憤然とした顔のまま、また歩き出したのだった。





午前中、しっかりと境内を歩き回った時音は、あまりの息苦しさと疲労で、堪り兼ねてふらふらと神社の鳥居を出た。

『はぁーーーーー。空気が…空気が足りない…。』

『あはは。時音はホント、清らかだからなぁ。』

闇に穢れまいと身の内から防御の力を出し続けていた時音だ。
こりゃ、そのうち倒れるぞ…と良守も心配していたが、やっぱりものの数時間で限界が来たらしい。
グッタリと地面に手をついて膝をついた時音を、良守はクスクスと笑いながら抱き起こしてやった。
途端にそのお腹から、グルル〜といい音がして、また吹き出してしまった。

『笑うなっ!』

『くっくっくっ…ハイハイ、ごめん、ごめん。』

全然悪いと思ってない顔で宥める良守に、時音は頬を膨らませた。
良守はすいっと視線を逸らし、周りを見渡すと、さすがに観光地らしく、神社の通りには、あらゆる店がひしめき合っている。

『ああ、ほら、時音の好きそうな店がいっぱいあるよ。』

取り繕ったその笑顔に、時音はふんっと鼻を鳴らしたものの、確かにここから見ても、魅力的なお店が派手に暖簾をはためかせていた。
途端に疲弊した顔つきがぱぁっと笑顔に変わる。
思うままに歩き出した時音の背中を見ながら、良守はニコニコと笑顔でついて行く。
脇目も振らず、目的の店へと進む時音は、良守が当然後ろからついて来ると信じているようだ。
昔から変わらない、この立ち位置に、あの頃は隣に立ちたくて、そのうち追い越したくて仕方がなかった。
だけど、それが子供染みた感情だったことを、今になって理解した。
こんなに落ち着いた気持ちで時音の背中を見ることが出来るようになったなんて、ちょっとは自分も成長したのかな。
そう思うと自然と嬉しげな笑みが浮かぶ。

『時音、何を食べるの?』

『うーん…地鶏が美味しいらしいのよねぇ。』

『ああ、そんな店が多いね。』

『ああ…どうせ波動の能力を持ってるなら、どこのお店が一番美味しいのか分かる能力も欲しかった…。』

『ふっ…あはは。さすがに時音でも、それは無理なんだ。』

こんなに他愛もない話で笑い合うのも、あの頃にはなかったもの。
自然に時音から繋いでくるその手の温もりと感触も、あの頃自分が欲しかったものばかり。

『ああ…幸せだ…。』

『ふふっ。なぁに、今頃?』

『改めて、ね。時音、愛してるよ。』

『当たり前。そうじゃなきゃ、あんた今頃、私に滅されてるんだからね。』

『あはは。どっちにしても、お前の手にかかるんなら幸せだよ。』

少しきつくなってきた陽射しだけど、それを打ち消す爽やかな風が心地いい。
目に移る深い緑が、改めて鮮やかで眩しいと感じる。

隣で笑っている愛しい人が、全部教えてくれたのだ。

世界はこんなに、色とりどりで美しく、そして楽しいものなのだということを。
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