裏会

□邪心が来たりて笛を吹く
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ーーーーー夜叉護村…

完全に世間から隔離された小さな集落。
地図にも載ってない程の小さな村。
樹海の真ん中にポツンと空いたそこに、その村はひっそりと存在しているとのことだった。


墨村家から遠く離れたその場所の近くまで、蜈蚣に送ってもらったまではいいのだが、まだかなり遠いその村までは、ひたすら結界を繰り出して進むしかないのだと言われた。

『この先からは、頭領の式神さえ容易く消されました。私も近づけません…申し訳ないのですが…』

すまなそうに頭を下げる蜈蚣に、2人は丁寧にお礼を言って、ここからは自分達で行くから気にするなと別れを告げる。

『羽鳥さんを…お願いします。どうか、ご武運を…』

いつまでも頭を下げる蜈蚣に、なんだか更に嫌な予感が重たく肩にのしかかった気がした。

とりあえず、何かあったらすぐ守れるようにと、嫌がる時音を強引に抱き上げて、そろそろ1時間は暮れた頃だろうか、延々と続く、樹海の先の方にポッカリと穴が空いたような場所が見えてきた。

『あれかな…』

『たぶんな。』

少し足を止めた良守は、式神を呼んだ。

『主、本当にあそこに行かれるのですか…』

すぐさま良守の背後に現れた式神が、跪きながらチラッと良守を見上げる。
その表情は、不機嫌のような、何かを嫌悪しているかのような顔つきだった。

『お前も何か、感じているのか?』

『まぁ…感じるというか、攻撃されてますね、私。』

『え、いつから?』

『主が蜈蚣様と別れたすぐ後ぐらいですか…』

ここに近づくに連れて、式神の存在に物凄く圧力をかけてくるものが、ずっとこの身を消そうと攻撃してきているのだ。
幸い、良守の強い破魔の力と、時音の清らかな浄化の力が式神には注がれているから、ダメージは然程ない。

『マジか…俺らには何も来ねえのにな。』

ポツンと良守が呟いた途端、時音と式神が呆れたように口を開いた。

『あんたが弾き飛ばしてるだけでしょうが…』

『ああ、力のある者に有りがちな…鈍感、なのでしょうねぇ…。』

確かに何かが、部外者を一切排除しようと攻撃してきていたのは時音も気付いていた。
だが、良守は全くそれを感じず、無意識でその攻撃を弾き飛ばしていたのだ。
式神でさえ、良守の破魔の力で守られているのだから、別に不思議ではないのだが、一応、気配に敏感なはずの術者なんだから気付くぐらいはしてほしいものだ。

『それにしても、またすっごい所に故郷があるのねぇ、羽鳥さんて…』

だんだん近くなってきたその偏狭の地。
地図にも載ってないというのも頷けるほど、あの小さな集落は完全に世間から孤立している。

『普通にあそこに降りても大丈夫なのかしら。』

『うーん…だって樹海のど真ん中だしなぁ…』

周りに降り立つ事の出来る場所は見当たらないから、やっぱり直接あの集落に降りるしかないと思う。
時音もそう思って諦めたような息を吐いたその時だった。

【貴様…性懲りも無く、また本質も見極めずに無謀に飛び込む気か…】

2人の頭の中に、今までで最高に不機嫌な比売神の低い声が響いた。

『出たな…やっぱり…』

瞬間、大きな力の渦が2人を包み、そのまま何処かに引っ張り込まれてしまったのだった。



ーーーゆっくりと瞳を開いたら、目の前には真っ白な空間が広がっていた。

【小娘、おいで】

『比売神…』

ふわりと比売神が時音の目の前に姿を現し、たおやかな仕草で両手を軽く広げる。
まるで吸い寄せられるようにそこに歩み寄った時音は、そのまま比売神に身を任せて蕩けていった。
その光景を見ながら、片膝をついて畏まった良守は、頭を下げて問いかける。

『比売神、教えてください…あの村にはいったい何が…』

愛おしく時音を抱きしめて微笑んでいた比売神が、その声にチラッと視線を向けて、それから忌々しげに口を開く。

【小僧、なぜ貴様が何も感じなかったか…それこそが本質。ここまで言ったら、いくら阿呆な貴様でも分かるだろう?】

ピクリと肩を震わせた良守は、比売神のその言葉で顔を下げたまま唇を噛み締めた。

『また…私の領域内の任務…という事ですね。』

【異変を異変とも思えない、そんな危ういお前を、あのまま黙って行かせるほど我は冷徹ではないぞ。】

優しい声が良守にかかる。
なんだか知らないが今回は神罰は当たらないらしい。
密かにホッと息を吐いた途端、良守の身にだけ、比売神の重苦しい力がのしかかった。

『ぐっ…んだよ、結局こうなんのかよ…』

手をつき、力を放出してその神罰に対抗するが、余りに重くてその支えすらブルブルと震える。

【当たり前だ、赦されるとでも思ったか。
相変わらず甘いの、甘過ぎて笑えるわ。】

楽しそうに笑う比売神の声に呼応して、力は良守を押し潰した
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