裏会

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ーーーーー長きに渡って守り続けてきた烏森も、そのお役目が封印という形で終焉して3年経った。

私が高校を卒業したその日、良守と一緒に家を出た。

別に実家と決別したわけではない。
烏森封印とともに、長きに渡っていがみ合っていた両家も嘘のように仲良くなった。
相変わらず私達には正当継承者としての任は残っているけど、私たちが一緒にいるなら何も問題ないと歓迎すらされたほどだ。
だから、私たちは安心して家を出たのだ。
しばらく、2人だけで生活したいと申し出て。
ゆくゆくは実家に戻って家督を継承するつもりだから、それまでの修行のつもりなのだ。
良守はまだ高校生だが、学校へは式神にやらせて、私と一緒に裏会から依頼される仕事をこなしている。

2人だけで、力を合わせて生活する。
これが2人で家を出た理由。
幼い頃から烏森に縛られてきた私たちは、あまりに世間を知らな過ぎた。
あの地から離れた事がないうえに、修行に明け暮れて外聞を知る余裕も、必要性さえ感じず育ってきた。
良く言えば純真無垢。だが、両家の現当主、時子と繁守に言わせれば私達は世間の厳しさを知らない常識知らず。
それが理由で、まぁ…家を追い出されたのだ。

ちなみに、裏会から依頼される仕事は当然、私たちの能力をフル活用できるものだ。
主に夜が活動時間。
たまに昼間の仕事も入ってくるが、大まかには烏森にいた時と同じような生活時間を過ごしている。
そこはあまり変わっていないが、もう助けてくれる祖父母も側に居ない。
何が起こっても良守と力をあわせて乗り越えるしかない。
私たちに課せられたのは、そんな修行なのだ。







ーーー昼前に起きて、ようやく動き出した身体で家事をこなしていく。
その間に、良守は昼食を作ってくれている。
時音はベランダに出て洗濯物を干しながら、そこから見えるのどかな景色を眺めていた。

ここは、裏会総本部の山の麓。
山に囲まれてはいるが、眼下にはわりと栄えた街が広がり、私達はその一角に建つマンションの最上階に住んでいる。
20畳もある広いリビングダイニングと、対面式の広いキッチン。
メゾネットタイプの低い階段を登れば、3つの部屋が並んでいる。
いま、洗濯物を干しているベランダは、これまた広いルーフバルコニー。
オシャレに木材を使用したここには、まるでオープンカフェみたいなテーブルセットが据え付けられている。
端の方には木々が植えられ、ちょっとした花壇まである。

『はぁ…なんだか…いつまでも落ち着かない…。』

洗濯物を干し終えて、そう呟きながら部屋に入ると良守が不思議そうな顔をして見つめていた。

『どうした、なにが落ち着かないって?』

『や、この贅沢な部屋よ。
ただでさえ、純日本家屋で育ってきたのに、こんな高級ホテルみたいな部屋に住むことになるなんて…。』

『あはは。いいじゃん、目新しくて。
まぁ、俺は時音がいればどこに住んでも関係ないけどな。』

ジッと目を眇めた時音をよそに、良守は手早い仕草で昼食を完成させて、ダイニングのテーブルに並べていく。
今日はボンゴレパスタとサラダとスープ。
それに、良守お手製のパンが2種類。
そして、良守が一番得意とするデザートのケーキの盛り合わせ。
対面キッチンのカウンターには、コーヒーサーバーが白い湯気を上げながら、部屋いっぱいに良い匂いを漂わせている。

『お待たせ、時音。
ほら、座って食べよ?』

促されるまま座った時音は、半ば呆れたように料理を眺める。

『ほんっと、良守って器用だよね…。』

まるでテレビに映るお店で見たような完成度の高い料理の数々。
これを、ものすごく簡単そうに、しかも手早く完成させるのだから毎回驚いてしまう。

『だいたい、パンなんていつの間に作ったの?』

『ああ、生地を作り置きしてたんだよ。
だから、今日は焼いただけ。
見栄え良く見せてるけど、今日のはそんなに手間も時間もかけてないよ。』

こともなげに言う良守に、改めて溜息が漏れる。

ここに住み始めて半年ほど暮れたが、あの広いキッチンは良守が独占している状態だ。
元々お菓子作りが趣味だった彼だが、まず最初に自分が台所仕事全般を担いたいと言ったのだ。

『お菓子作りもそうだけどさ、料理も出来上がっていく過程が楽しいよ。
家じゃ、父さんが完璧に台所を陣取ってるからさぁ…。』

まぁ、別に私はそれで助かってるから良いんだけどさ。
世の中、女が家事全般を担うのが当然みたいなのだが、残念ながら私には彼のような器用さは皆無。
どう手を伸ばしても彼にはまったく及ばない。

『ほんと…良守のおかげでいつも美味しいものが食べられて嬉しいよ。』

『あはは。毎回、そうやって時音が褒めてくれるから、俺も向上心が湧いてくるんだよ。』
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