裏会
□その後の2人
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パスポートを要求された時に気付くのが普通だろうに、あまりにイキナリ過ぎて気付くヒマもなかった。
(私のバカー…)
『降りる。』
『は?』
『私、降りる〜っ。』
『や、もう遅ぇだろ。
さっき離陸したとこだし。
いま降りたら落ちて死ぬぞ?』
チョイチョイと窓の外を指さす良守に
ふと窓を見ると、外はすでに空の上。
そういやさっき、なんかアナウンスしてたな…
え、あれ…もしかして…
『うん。離陸のお知らせだよ。』
『いやーーーーーっ!!』
ああ…神様…
どうかこれは夢だと言ってください。
――――――――――…で。
あっという間に国外の土地に足を踏み入れた私は、まだ呆然としていた。
『時音、とりあえず今日はホテルに向かうから。』
良守に手を引かれ、辺りを見渡すヒマもなくタクシーに乗せられ、なんだか分かんないうちに何やらデッカいホテル前で下ろされた。
サクサクと手続きを済ませた良守は、また時音の手を引いて部屋に連れて行く。
『ここ、寝室ね。
バスルームとトイレはこっち。』
マンションみたいな部屋だった。
ちゃんとリビングもあって、炊事場まである。
ホントにホテルなんだろうかと思いつつも、それより先に確認したい。
『ねぇ…ここって1人部屋?』
『あ?ンなわけないだろ。』
『だって…ベッド…』
海が一望できる広い寝室には、デッカいベッドがひとつだけドーンと居座っている。
確かに1人で寝るには広すぎるベッドだが、ここは外国だし…
『バカ。2人でも狭くないだろ。
キングベッドだぞ?』
ああ、外国だから?
2人でも広すぎるこのベッドは
なんでも大きい外国らしいよね。
って、イヤイヤ。
そうじゃなくてっ!
じゃあなに!?
何泊するつもりか知らないけど
その間ずっとコイツの横で寝るの!?
ねぇっ、恋人でもなんでもない
ただの幼なじみが?
いくら気心知れてるっても
一応私、年頃の女よっ!?
脳内でブワーッと文句が通り過ぎていくが、あまりに沸騰しすぎて声なんかでない。
パクパクと口だけ動かして動揺しまくる時音を見ながら、良守は本当に小さな声で呟いて目を逸らす。
『・・・・・しょーがねーじゃん。
一緒に来る予定だったヤツが
急遽ドタキャンしやがったからさぁ・・・』
ボソリと呟いた良守の言葉に、ピタリと文句が止まった。
『え・・・・・?』
一緒に来る予定だったヤツが…いたのっ!?
えっ…それってもしかして彼女っ!?
ねぇ、アンタ彼女いたのっ!?
てか、ドタキャンってアンタ…
逃げられたんじゃないの、ソレ…
『ぷっ。』
『わっ//笑うなっ!!』
『あはっ。ゴメン…でもさぁ…』
そういやこの旅行…
飛行機はファーストクラス
ホテルはスイートルームで。
なんかスッゴい気合い入ってるよね。
『…せっかく一週間、休暇もらったのに』
『一週間っ!?』
は〜…そりゃお気の毒に…。
思えばコイツも可哀想なヤツだ。
たまたまヒマだと知った私を
仕方なく誘いに来て冷たく断られ
強引に連れて行こうとして全力で
人攫いと罵られて
おまけに飛行機降りるって騒がれて…
スチュワーデスのオネーサンに注意されて謝り倒していた良守を思い出したらツボに入った。
『あははははははっ!!
アンタってホンット何やっても報われないヤツよねぇ〜。』
お腹を抱えて爆笑する時音に、良守の顔がカァッと朱に染まった。
『うるせぇっ。てか笑いすぎだろっ!!』
『だってアンタ…あははははははっ!!』
ヤバい。笑いが止まらない。
お腹痛いし、息できない。
『全部アンタのオゴリなら、仕方ないから付き合ってやるわよ。』
『へーへー…そりゃアリガトよ…』
しこたま笑って、やっと一息吐いた頃には、クッタリと肩を下ろす時音の前で、ブッスリと渋面を作る良守の姿があったのだった。
―――――――少し休憩して、ちょうど夕飯時になったから、良守と晩ご飯を食べにホテルを出た。
『時音、何食べたい?』
ニッコリ笑って尋ねられたが、まだそんなにお腹も空いていない。
それに、それよりも気がかりな事があった。
『それより…着替えとか揃えないと…。』
良守に強引に連れ去られたおかげで、
着替えも何もない私は、身ひとつで
この異国の地に居るのだ。
今着ているのも、ただの家着だ。
ハッキリ言って、これでこの観光地を
ウロウロするのも恥ずかしいのだ。
『一週間分の服と、下着も買わなきゃ…』
『おお、下着な。
スッケスケのレースとかイイなっ。』
『ばかーっ//』
ベシーンと頭をはたいてやる。
『イッテー…この暴力女。』
『うるさい。この変態良守。』
久しぶりの再会だというのに、相変わらずコイツといれば言い合いになるのが楽しいなんて感じてしまった。