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春は別れの季節…

けど…

出逢いの季節でもあるんだよ?




雪村時音、現在22歳。
由緒ある結界師一族の、雪村家の跡取り娘である。

代々、とある土地を護ってきた一族だったが、5年前にそれが終結してしまった。
隣に住む、同じ結界師一族のこれまた後継者が、護るべき烏森の地を永久封印してしまったのだ。

2つ年下の幼なじみは、確かに昔から異常に力があった。

幼い頃は『弟』みたいに思っていて、それから『ライバル』へと変わっていき、それが『頼れる奴』に変化してしまった時、封印が完了した。

…それ以来、彼には殆ど会ってない。

お隣さんだから道でばったり出会うことはあったが、特に仲が良かったわけではないので挨拶をする程度だ。
時音が高校卒業して、大学へ入ったら更に出会う頻度は少なくなり、そのうち彼も卒業して、まったく出会わなくなってしまった。

彼が高校卒業してすぐに、兄が統率する夜行に入ったと、彼の父が教えてくれた。

遠く離れた夜行本拠地に行ってしまった彼は、もう2年間も全くこちらには帰ってきていない。

『アイツ…どうしてるかな…』


この2年間、殆ど思い出さなかった彼のことを、不意に思い出したのは何故だろう。

ああ。目の前にある桜の花が、懐かしく感じたからかもしれないな。


時音は今年から母校である烏森学園に、教師として戻ってきた。
初々しく着慣れないスーツに身を包み、全校生徒の前で初めての挨拶をしてから早1ヶ月が過ぎようとしていた。

それなのに桜が咲いているのは、これが普通の桜ではないからだ。
この地の力は封印されたから、昔のように夜桜詣りに来る妖は居ないが、烏森は時折、こうやって思い出したかのように咲き誇る。

それは私が
元気を無くした時…

彼を思いだして、寂しいなんて思ってしまった私を、どうやら慰めてくれているらしい。

『ふふっ…。
烏森…ありがとうね。
でも、アンタも良守が居なくて寂しいんでしょ。』

そっと桜の木の幹に手を触れさせると、なんだか切ない気持ちが伝わってくるような気がした。


彼と強く共鳴していた烏森は、彼が居なくなってから、何故か私と共鳴しだした。

気持ちが分かり合えるというか、それとも私を、彼を待つ同盟者だとでも思っているのかもしれない。

何かあるとこうやって桜を咲かせて私を呼ぶのだから。


ハラハラ舞い散る桜の花が、さっきよりもたくさん花びらを降らせてきた。

(まるで烏森が泣いてるみたい…)

舞い散る花びらが、まるでとめどなく零れ落ちる涙のように感じるのは、きっと私も同じ気持ちだろうから…。

『………バカ良守…。』

呟いた途端に滴が落ちた。

なんでだろう。
泣くつもりなんて
無かったのに…。

次々に瞳から零れる滴が
頬を伝ってはパタパタと
地面に向かって落ちていく。


なんでだろう…。


なんでこんなにアイツに逢いたいと思うんだろう。


『逢いたい…。』

言葉にしたら、胸がキュウッと締め付けられた。

『逢いたいよ…良守…。』

舞い散る花びらが量を増し、柔らかな風が時音を包む。

前が見えないくらいの桜の雨が、泣いている時音をまるで隠してやっているみたいだった。

『…っふ…良守…』

両手で顔を覆って、彼の名を呼んだとき、ザァッと風が強く吹いた。

『………泣かないで…?』

『…………え?』

桜の雨が小降りになって、やっと前が開けだす。
顔を覆っていた時音は、それに気づいてゆっくりと顔を上げ、驚愕に目を見開いた。

『…………な…んで…』

目の前に立つ者を、見つめたまま固まってしまった。

『…ウソ…なんで…?』

漆黒の装束を身に纏い、桜の雨を浴びながら、凛と立つ彼は昔と変わらない柔らかな笑みに、少し困ったように眉を下げていた。

『なんではコッチのセリフだよ。なんでお前、泣いてんの?』

『………良守に…逢いたかったから…。』

意識せずに、素直な気持ちが勝手に口をついて出てくる。
彼も驚いたように目を見開いた。

『マジで?時音、俺がいなくて寂しかったの?』

『ん…スッゴいスッゴい寂しかったよ…。』

なんか…夢見てるみたい…

だけど夢だと思わないのは、烏森の歓びが伝わってくるから。

『ねぇ、今日は仕事…お休みなの?』

『んーん。お前に会いに来たの。』

『は?』

『お前を迎えに来たんだよ。』

『………な…。』

言われた言葉がすぐには理解出来なくて、時音はポカンと口を開けたまま止まってしまった。



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