宝物

□ターゲット
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零は目を見開き、Quintetの傍に座り、声を掛けようと口を開いたところで、
「一度は殺そうとした相手を心配するなんて、優しい方ですね。」

死んだと思ったQuintetの瞳を真っ向から受けた。また、スルリと伸びた手は、零の頬に触れる。
「名前を教えてください。先程も言いましたが、自分はQuintetといいます。」
「死翔零だ。」
「いい名前ですね。」
倒れたままでQuintetが言うと、零は少し気恥ずかしそうにした。

「おや?」
「ん?」
2人が戦う事を止め、お互いの名前を知るのを待ちわびていたかのように、空からポタ、ポタ、と雨が降ってきたのである。すると2人とも武器を仕舞い、立ち上がった。
「傘持ってませんよね?」
「俺なら濡れて帰っても大丈夫だ。」
「それはいけませんよ。」
Quintetはそう言うと、いきなり上着を脱ぎ始め、
「え、ちょっ、何やって!風邪ひいちまうから!」
それを零に被せたのだ。
「家に着くまで、そのままで帰って下さいね。傘の代わり。とまではいきませんでしょうけれど・・・。」
苦笑するQuintetに零が
「俺は風邪なんか引かねえからいいんだよ!それにお前が風邪引くだろうが!」
と反論すると、Quintetは、ほんの少しだけ低い身長の彼の耳元で、

「貴方が風邪を引いてしまうのは勿体ありませんから。」

優しく甘い声で囁き、その場所から消え去った。
雨の降り注ぐ中で、ガクン、と腰を地面に落した零は、耳まで真っ赤に染めた顔で、Quintetが被せてくれた上着の端を握りしめた。
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