treasure

□舞人さんから
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※年齢操作あり。




「乱太郎!乱太郎!」
「乱太郎、こっち向いて」
「あ、神埼先輩と次屋先輩、こんにち・・・・・は?」

いきなり名前を呼ばれたかと思えば、トントンと肩を軽く叩かれて・・・。
そのまま振り返ってみると、目に飛び込んできたのは半裸の先輩二人である。
ある昼下がり、猪名寺乱太郎(12)は変質者たちに遭遇してしまいました。







「あの・・・・何で、そんな格好しているんですか・・・・」

驚きのあまりに呆然とする時間はあまりにも長いようで短い。
それでも何とか状況を理解しようと、乱太郎は目線を少しずらしながら目の前で仁王立ちしている二人に疑問をぶつけた。
迷子コンビと名高い神埼左門と次屋三之助に常識が通用しない事なんてわかりきってはいるのだけど・・・。

「見ればわかるだろう!乱太郎を誘惑しに来たんだ!」
「わ、わかりませんよ!そんなこと!」
「乱太郎、俺たち見て興奮しない?」
「意味不明なこと言わないでください!」

やはり、常識は通じる訳がなかった。
乱太郎は妙にクラクラと眩暈を感じたが、そこは何とか踏ん張ってみせる。
第一、この人たちは何を言っているのだろうかと思えてならないのだ。
自分を誘惑しに来た、だなんて意味不明な冗談をわざわざ言いに来ないでほしい。
しかも、びしっと自分を指を差している神埼の傍ら、次屋はよくわからないポーズを取って変な事を言っている。

「とりあえず、服を着てください・・・・!」
「駄目だ!僕たちはまだ目的を果たしていない!」
「どんな目的ですか、今日はそんなに暑くないですよ?」
「・・・おかしいな、左門。乱太郎はその気になってないみたいだぞ」
「おかしいな!書物の通りにやっているというのに!!」
「・・・・・・・・・書物?」

どうやら、二人は何らかの書物を参考にし、こんな奇行に走っているようだ。
それがどんな内容であるかなんて、深く考えたくはない・・・・。

「艶めかしく晒された胸元を見れば、興奮するものじゃないのか?」
「私、まだ子どもだからよくわかりません」
「なるほど!それを忘れていたな、三之助!」
「そっかー・・・・失敗だな、左門」

一先ず、「自分子ども」という理由で難を逃れられそうである。
だが、思い出すようにポンと手を叩いた神埼と次屋を見て、乱太郎は溜息をつかずにはいられない。
そんなよくわからない知識を自分で試してほしくはないし、早く半裸の二人から離れてしまいたかった。

「それじゃ、私はこれで・・・・」
「おぉ!引きとめて悪かった!」
「いえ、気にしないでください。早く服を着てください」
「乱太郎、またな」
「はい、失礼します。風邪ひかないでくださいね」

二人に曖昧な微笑を浮かべながら、そそくさとその場を去っていく乱太郎。
もうすぐ夏も終わるというのに、あの二人はまだ暑さに頭がやられているのだろうか・・・などと考えながら。
そんな乱太郎を見送り、左門と三之助は腕を組みながら、うーんと首を傾げていた。

「乱太郎を興奮させるのは無理があったか!」
「向こうから迫ってきてくれるのが、一番良かったんだけどな」
「だが、僕は自分からでも構わんぞ!」
「俺もその方が楽だけど、周りがうるさい」
「うむ、難儀だな!」
「燃えるけどね」

完全に乱太郎が見えなくなった後、なんとも聞き捨てならない会話を交わしていた二人。
いまだに上半身が露わになっているが、その事に関しては気にする素振りすら見せない。
通りすがる後輩たちが何事かと視線を向けていたとしても、全くもって気にしないようである・・・・。
その後、神埼と次屋は、それぞれ反対方向から現れた滝夜叉丸と三木エ門に真昼間からの半裸で仁王立ちしている姿を見られてしまい。
これでもかという程におもいっきり怒鳴られたが、特に反省の色は見せずに平然と歯向かっていたという。















「はぁ・・・・今日はびっくりしたなぁ・・・・」

夜、一人で湯船に浸かりながら溜息と共に呟かれた乱太郎の小さな声が風呂場に響いた。
少し時間が遅めであるので他には誰もおらず、久しぶりにのんびり疲れを癒せると少しおやじくさい事を考えてしまう。
そんな乱太郎が思い出していたのは、やはり今日一日で最も衝撃を受けた先輩二人の奇行だ。

「ほんと、何だったんだろ・・・・」

考えても仕方ないと思いながらも気になって仕方ない。
大体、あの後に二人はどうしたというのだろうか。
いつまでも半裸でいる訳はないし、本当に風邪でも引かなければいいのだけど。

そんな事を湯船に浸かりながら考えていると、いきなり風呂場の戸がガラっと勢いよく開けられた。

「う、わ・・・っ」
「む、誰かいるぞ!誰だ!?」
「・・・・・・・猪名寺です」
「なんだ、乱太郎じゃん」
「・・・・・・・・・・・神埼先輩、次屋先輩」

あまりにも強く戸が引かれたので驚いて目を見開いたが、眼鏡をはずしているのでよく姿は見えない。
しかし、聞き覚えのありすぎる大声と気の抜けているトーンの声はあきらかに昼間遭遇した二人だ。

「乱太郎、何してるんだ!」
「お風呂に入ってるんです。見てわかりませんか・・」
「一人で入ってるの珍しくない?」
「はい、今日はたまたまです」
「そうか!悪いが邪魔するぞ!」
「いいですよ。私はもうすぐ上がりますから」
「えー」
「なんですか、えーってのは・・・・・のぼせちゃうから上がりますよ」
「乱太郎が倒れたら介抱してやるぞ!」
「優しく介抱してやるよ」
「結構です。いりません。もしそうなっても、保健委員の誰かを呼んでください」

すでにいつもと同じくらいの時間は入浴しているので、これ以上長くは入っていられない。
乱太郎はそう思っていたのだが、遠慮なしに風呂場に入ってきた二人は妙に残念そうである。
次屋にいたってはよく目が見えていない事をわかってか知らずか、乱太郎の上気している赤い頬や首筋に触ったりしていた。
だが、鈍い事に定評のある乱太郎もそれの意味などよくわかってはいなくて・・・・・。
「介抱」を言葉にしている二人になんとも冷静な言葉を返していたのだ。

「先輩方、早く浸からないと風邪ひきますよ」
「夜は少し冷えるなっ」
「昼間にあんな格好してるからじゃないですか?」
「早く浸かろうぜ、左門」
「そうだなっ」

忍たま達が使用する湯船は決して狭くない。
大人が数人入っても余裕はあるので、12歳になっても身体の小さい乱太郎と。
14歳の次屋と神崎が浸かったとしても窮屈感は抱かないのだが・・・・。

「・・・・・・・あの、狭いです」
「何故だ?こっちはこんなに空いてるぞ?」
「だったら、どうしてそっちに寄らないんですか?」
「乱太郎って肌白いな。女みたいだ」
「・・・・・・・・・・どうして、そんなにくっついているんですか。あと、妙に触るのは何故です?」

先程も頬や首筋には軽く触れられたが、流石におかしいと思ったらしい。
乱太郎は、広々とした湯船の中でわざわざ自分の方に寄ってきている二人に本日何度目かの疑問をぶつけた。
昼間と違ってお互いに一糸纏わぬ姿であるし、肌が密着するだけで妙に体温が伝わってしまう。
しかも、今度は神埼でさえも乱太郎の首に腕を回して抱きつくような体制を取っており・・・。
次屋は華奢な腰付近を両手で掴みながら「細すぎだろ」などと言っているのだ。
どんなに鈍いとはいえ、その意味がやはりわからないとはいえ、そこまで触れられるといくら何でも具合が悪い。
なんとも落ち着かないし、さっさと上がってしまいたくても動きがままならないのでそれも出来なかった。

「後輩と交流を深めるのも悪くないから」
「乱太郎は抱き心地がいいな!」
「左門、本音は自重しろよ」
「・・・・聞き逃しませんからね?」
「でも、これくらい良いじゃん、別に」
「本当にのぼせちゃいますよっ」
「だから、介抱してやるって言ってるのに」
「いりませんってば!」

そろそろ限界だ、と訴える乱太郎であるが、それでも二人は離そうとしない。
左門は乱太郎の濡れた髪の匂いに、鼻を動物のようにクンと鳴らしているし。
三之助は赤い耳元に普段より低めの声で囁いたりしているのだ。
それに負けじと乱太郎は抵抗を見せるけれど、いくら成長したとはいえ、それより二つ上の先輩には敵わなかった。
あまつさえ、二人の口から出たなんとも不穏な言葉に、乱太郎の眉間の皺がぴくりと寄ってしまう・・・・。

「しかし、三之助。あの書物に書いてあるのはまんざら嘘でもないと思うぞっ」
「あー・・・・確かに。艶めかしく晒された胸元とか、腰とか?」
「はぁ?どういう意味です?」
「乱太郎を見て、興奮するという事だ!」

全くもって意味がわからない、正しくはわかりたくもないだけなのだが。
いぶかしげに聞き返した乱太郎に、左門が大声で答えた言葉はあまりにも直球である。

「・・・・・・・はい?」
「かなりやばいよな」
「やばいな!」
「あの、ちょっと待ってください・・・・え?」

言葉の意味の理解が追いつかない乱太郎は慌てて二人に「待った」をかけた。
だけど、それで止まってくれるようであるなら、苦労はないというもので。
二人は何やら顔を見合わせると、乱太郎に触れたまま勝手に話を進めてしまうのだ。

「三之助、やはりこっちの方が良いぞ!」
「うん、そうだね。俺もこの方がいい」
「先輩方!どうして胸元とか触るんですか!」
「・・・・・・・えーと、下準備」
「はぁ!?」
「乱太郎、のぼせても介抱してやるからな!安心しろ!」

だから、あなた達に介抱される方が安心できない・・・・!
乱太郎はそう叫んでしまいたかった。
しかし、そこで思い浮かんだのは「それはどういう意味か」という事。
先程までは常識の通用しない二人に体調不良の人間を世話できるものか、という意味でそれを言葉にしていたのだ。
だが、今はどうであろう・・・・。
何やら自分の胸元に触れたり、首筋に唇を寄せたりしている二人に「介抱」をされるだなんて。
それは、とてつもなく恐ろしく、取り返しのつかないような事態になってしまうのではないかと思えてならない。

同時に、乱太郎は「もうすでに取り返しがつかない」状況に、自分が陥ったと本能的に感じてしまう。

気付いた時には手遅れ。
後悔先に立たず・・・・。

いろいろと言葉の表現は在ろうが、「時すでに遅し」とはこういう事を言うのだろう。
そんな事を考えた直後、乱太郎は自分の唇に触れた柔らかい感触がどちらのものであるのかに悩んでしまった。




end
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