学舎

□指輪大戦線
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「はぁ、流石に食後の運動は堪えるな…。」
「オヤジアルな、銀ちゃん。」
「んだと、コノヤロー。」
最終手段として用意していた作戦C。
まさかこれを使うことになるとは思ってもいなかった。
場所はベタもベタ、東京タワーだ。
「なぁ、たまには社会科見学みたいにアレに上ってみるのも悪くねェんじゃねーか?」
わざとらしく東京タワーを指差す。
正直、作戦Aで成功している手筈だったのに、ここまで失敗続きで、時間的にも精神的にもいっぱいいっぱいだ。
「あっ、でも、銀ちゃん…」
「あぁ?なんだよ神楽?」
待ったをかけてきた神楽に返事を返した次の瞬間。
―――ガシャン!!
「なっ、なんだこりゃー!!!!」
東京タワーを含め、街のの灯が次々と消えていった。
「どーゆーことだ、コレ!?えっ、何!?知らない間にもうそんな深夜になってたのか!!??」
「今日は街中が「省エネ運動」とかいうので、10時には街中の灯を消すってニュースで言ってたネ。」
そういえば、最近はプロポーズのことで頭がいっぱいで、ニュースなんてまともに聞いてもいなかった。
(なにもこんな日に………)
真っ白に燃え尽きた気がした。
「真っ暗だし、私もお腹いっぱいで眠いからそろそろ変えるアル。」
「う、うん…だな………。」
無意識に手を入れたポケットの中の指輪が、俺に更なる虚しさを感じさせた。


(はぁ…、どーすっかなー…。)
タオルで頭を拭きながら風呂を出て、俺は考えた。
また一からプロポーズのシチュエーションを練り直さなくてはならないが、何分、神楽の卒業までに時間がない。
「はぁ………。」
溜息をつきながら寝室に入ると、寝ていると思っていた神楽がベッドに座ってじっとしていた。
「神楽、まだ寝てな…ゲッ!!」
神楽が手にしている物を見て俺はバカみたいな声を上げた。
「銀ちゃんの洋服畳んでたら出て来たネ。銀ちゃん、コレって…」
神楽の質問に俺の頭の中が真っ白になる。
(はぁ、ここまでか…。)
「ああ、お前の察しの通りだよ。」
「やっぱり…。時限爆弾のスイッチアルな!!」
「なんでそうなんだよ!!!!指輪だよ、ゆ、び、わッ!!」
あまりの的外れな解答に、教師として許せなくなった俺は思わず正解を大声で叫んで後悔した。
(バカだ、俺ァ………。)
言わなきゃまた作戦を練り直して、ロマンチックなプロポーズが出来たというのに。
「指輪?誰に?」
またしても的外れな事を言う神楽に少しムッとなる。
「オメー以外に誰がいるんだよ?」
「私に?なんで?」
「…婚約指輪。わりィ、俺、すっかり夫婦なつもりでいたから…」
神楽の手から指輪を取り戻す。
「ホントはもっとちゃんとした場所でちゃんと…って思ってたんだけど、バレちまったらしかたがねーな。」
小箱を開け、指輪を取り出す。
作戦はことごとく失敗したが、指輪だけは自分が満足出来るものを用意できた。
「可愛いネ…。そんな、私だって忘れてたこと、別にいいのに…。私は銀ちゃんといられるだけで幸せアル。」
「だから、尚更ちゃんとしたことが必要なんだろーが。」
無理矢理神楽の左手を取り、薬指に指輪をはめる。
「神楽………」
「銀ちゃん、私と結婚してくれるカ?」
「って、ちょっとォォォ!!!!それ、先生のセリフだからッ!!先に言っちゃダメでしょ!!」
まさか、神楽に先を越されるとは思わなかった。
「ごちゃごちゃうるせーヨ。デートして、指輪まで用意してもらったんだから、これくらい私に言わせろヨ。」
「それが一番譲れねーよ!!!!ちったー、男心を分かれ!!」
「エロいことでいっぱいネ!!」
「そっちの方じゃねーよ!!ったく…」
神楽に真っ正面から向き合い、真剣な目を向けた。
ホントに最後までグダグダだ。
「神楽、結婚しよう。」
「うん!!」




end
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