花びら
□愛を溶かして
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飛び込むように台所に入ると焦げくさい臭いが鼻をついた。火は使っていないはず。ならばなんだ。
「…オーブン…!」
急いでオーブンを開けると真っ黒になったスポンジが入っていた。スイッチを切り忘れたのだ。ちゃんと切っていたら。せめて焼き終わるのを待っていたら。
後からそんなことを思っても遅い。今から、作り直せるだろうか。
ドアが開く音がした。
「ただいまー…」
銀さん、だ。靴を脱ぐ音に続けて、まったく神楽と新八の奴あっちこっち連れ回しやがって銀さんの歳を考えろ歳を、とか言っているのが聞こえた。
もう作り直せないや。目頭が熱くなるのが分かって動けなくなった。喜んで欲しかったのに。
「…どうした?」
「…ぎ、んさんに、ケーキ作ろうと思ったんだけど、」
失敗しちゃった。ごめんね。これ以上困らせたくないから、笑って言ったつもりだったのに出てくるのは涙ばかり。
こんなことになるなら最初から作らなきゃよかったのかなぁ。
泣き言ばかり浮かぶ頭にぽふ、と手が乗せられた。そのまま慰める手付きで撫でられる。あたたかい、銀さんの手。
「人には向き不向きがあるから」
私よりずっと背の高い銀さんが話すと、言葉が上から降ってくる形になる。その言葉は優しく私を包んだ。止まってくれなかった涙も嘘のように乾いていく。まるで魔法みたいだ。
「ケーキなら明日また一緒に作りゃいい」
顔を上げると銀さんは笑みを浮かべていた。
「ケーキは俺が作るからさ、お前は愛をトッピングしてよ」
愛を溶かして
「…銀さん、今の台詞クサいよ」
なっ!なんてこと言うのこの子はもォ!って怒る銀さんの顔は少し赤くて。それを見てやっと私は笑えた。
明日一緒に作る時は、もう絶対失敗しないよ。
09.10.10 銀時生誕祝