花びら

□not 星祭り、翌日
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今日は七夕の翌日…ではないのだ。


江戸を守る武装警察真撰組(またの名をチンピラ警察24時)(やりきれない渾名だ)の朝は早い。何時如何なる事件にも対応出来るように。また、その鍛練のために。
だがしかし今朝は違うようだった。いつも聞こえる鍛練の掛け声ではなく呻き声に溢れている。そんな中、女中兼一番隊隊員、ついでに未成年である私は目を覚ました。…いつも見るより日が高い。普通なら副長が怒鳴りこんで来るのに。

「やっぱり皆潰れてますね…」

今日は7月8日。つまりは昨日が七夕だったということ。近年稀に見る満天の星空に、近藤さんがハメを外すのは目に見えていた。

「今日は七夕だ!織姫と彦星みたいに俺とお妙さんもなるぞォォォ!」

「「それは無理だろォォォ!」」

「なんでェ!?いいじゃんゴリラが夢見たって!」

「夢は寝て見るモンですぜィ」

「総悟ォォォ!?」

…と、便乗した隊士達が予想を上回るペースで酒を飲み肴を食らい、本来ストッパーになるはずの酒に強い副長も無理やり飲まされ…。

「…み、水…」

「バケツ…吐く…」

―ぐでーん

こんな有り様になっているのだった。かなり酒くさい。
遅くなったとはいえ仕事をしない訳にはいかないので、畳に転がる人々を踏まないようにしてとりあえず怒鳴ってみた。

「皆さん起きてくださいもう鍛練の時間ですよ!」

そして片っ端から起こしていくと、縁側に腰かける蜂蜜色を見つけた。この人も酔っているのだろうか。心なしかフラフラしている。
ぼんやりと空を見上げるその背中に私は話し掛けた。

「隊長、おはようございます」

「あァ、」

「…酔ってますね」

ぐたりと私の足にもたれる隊長。普段見ない様子に油断していると、

「さァて今日は何い「バカか!」…痛ェ」

スカートをめくられそうになって思わず蹴っとばした。いつもならいざ知らず、ぐでんぐでんの今日はクリーンヒットだった。
赤くなった手をぶらぶらさせながら隊長は不服そうにするが、あんたそれSMどころかセクハラだからな。訴えるぞ。

「まァいいや。水色、こっち来なせェ」

…見てやがったなコノヤロー。だが、来いとでも言うように木目を叩くその目が幾分か真面目だったので素直に隣に座った。

「…何スか」

「悪ィやりすぎやした。…そういや、お前ェ昨日飲まなかったのかィ?」

「未成年ですし」

「まァ俺もだけどねィ。…んじゃ、これから酔って寝言言うから聞くんじゃねぇぞ」

「…は?」

ぶすくれた顔を向けるがあまり気にしていないようで。そして問いに首を振ると頓狂な答えが帰ってきた。

「何ですか一体」

「俺ァ寝てるんでィ。いいから黙って聞いとけ」

ゆるりと目を閉じる仕草に鼓動が跳ねた。そう、ドSだけど、顔は整っているんだこの人は。
黙っていると、普段の態度からは想像出来ないような細い声で何事かを呟いた。

「…今日は8日で七夕も終わったし、なんにも祝うことないですねィ」

「…?」

「きっとだれも、おぼえてない…」

いつになく弱りきった声でぽつりと。漏らされた呟きは庭に落ちて消えた。…もしかして、気付いてないのかな。

「…隊長、実は、」

「…すー…」

「…え」

肩にサラリ、柔らかい感覚。見ると隊長は私にもたれかかって本当に寝てしまったようだった。
あどけない顔は起こすに忍びない。どうしよう。

「(う、動けない…)」

でも気付いていないなら、わざわざ今教える必要もないか。
掲げられた紙が「七夕おめでとう」から「総悟おめでとう」に変えられたことも。隊長を酔わせておいて隊士が何人かパーティーの準備をしていたことも。

しばらくして覗きにきた局長と副長に、ピースをして微笑んだ。



not 星祭り、翌日
but 誕生日




今日は君の誕生日を祝おう。目が覚めて、驚く顔まであと少し。





10.7.8 沖田生誕祝



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