花びら

□愛を溶かして
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「…よし」

いっちょやってやろうじゃないの、一世一代の大仕事って奴を。
あたしは泡立て器に手を伸ばした。


卵、小麦粉、ベーキングパウダー、生クリーム、そして砂糖と苺。材料はざっとこんなもんだろうか。
大仕事と言ったってそんな大層なことではなく、ショートケーキを作るだけのこと。普通の女の子ならぱぱっと作れそうだ。
普通の女の子なら。

問題はあたしがいわゆる「普通の」女の子に分類され得ないことにあった。
包丁を使えばまな板が切れ、火を点ければ鍋ごと燃えそうになる。母親に「アンタに台所使わせたら、家が壊れる火事になる」とまで言わしめた程だ。「普通の」人ならもっとまともだろう。え?お妙ちゃんは…知らない。

少し話が逸れたけど、まぁ大体そんな訳で毎年銀さんの誕生日にケーキを作るのは泣く泣く諦めていた。お祝いしたいのに家破壊なんてしたらそれこそシャレにならない。
でも今日のあたしは一味違う。だって新八くんから一ヶ月レクチャー受けたんだもん!絶対出来る!
別にいいよとは言われたけど、やっぱり銀さんが好きだから。自分で作ったケーキ食べて欲しいんだ。それで好きって言えたらいいなぁ、とか。思ったりもする訳である。

誰もいない万事屋の台所で一人黙々とケーキと奮闘する。なんで誰もいないのかって、新八くんと神楽ちゃんが気を利かせて銀さんを外に連れ出してくれたからだ。
朝無理やり銀さんを引っぱっていってくれた二人に感謝の言葉もない。さっきメールで「頑張れ!」って応援してくれたし。

そんな二人に報いるためにも頑張らなきゃ。
焦ったのがいけなかったのかもしれない。

「…しょっぱ!」

生クリームに砂糖ではなく塩を入れてしまったらしい。あたしから見ればよくある間違いだったりするがだからどうなる物でもない。コンビニに買いに走る。
外はもう藍色に染まろうとしていて、町を行く人々は家路を急いでいた。タイムリミットが迫っているようだ。
レジの待ち時間さえ長く感じる。万事屋へと戻る足は無意識にも速いものとなった。



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