■KGB

□計算ミス
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俺は、

この世界を快適にするために生み出された。

人と人とを繋ぐための
便利な道具。

今日も、
狂うことなんてなく精密な機械技術で主人のために
働くんだ。

そんな携帯の話。




*****




「君、綺麗だよね」



「は?」


思わず、行変えでもないのにEnterを押してしまった。
画面が行変えのマークで次に打つ文字を待っている。

それでも、いきなり話しかけられた俺の思考は停止していた。

何故なら、
そんなことを聞かれるとは想定してなかったからである。


「おーい?」


その声で、俺ははっと我に還り、声の主を見た。
周りががやがやと騒ぐ中で、
一人離れてベンチに座っている俺の目の前で、
見下ろすように腰に手をついて立っている。
えーと……
この人は



「白那」
「は?」
「だから、白那っていうんだ。僕」



まるで俺の考えていることを見透かすかのように、
白那と名乗ったその男はニコリと笑った。
何となく俺は悔しくて、
何も言えずに彼を睨んでいるだけだったが、
白那と名乗るその人は、
そんなこと気付きもせずに俺の座ってる目の前の机に腰をついて、
今まさに打ちかけていたノートパソコンを自分の方に向けた。



「うっわ、文字だらけ。これもしかして仕事?」
「……そうですけど」


完全に機嫌が斜め下に急降下した俺。
机に肘をのっけて手に顎をつく。
これが人が不機嫌と見せる最大の仕草だ。


が、白那さんとやらはそんなの全くの無視でさらに話を進めてきた。



「君ねぇ……せっかく海に来てるんだから、ここに来てまでパソコンしなくても……」
「っ……誰のせいだと……!」




そう――

話は小一時間前に遡る。



俺は、この年(16)で、
IT系の仕事についてる。
毎日が文字との戦いの中で着々と成績を上げ続け、今や俺の右に出る者はいない。
まぁ……
その分、仕事が下の倍あって、時間の合間があればこうしてパソコンでデータ解析してる訳だけど。
だから人から見れば、休みのない可哀相な人と思われがちだろう。
でも別に苦じゃない。
これが当たり前と思ってるし、きっとこの先だってそうだ。
もちろん、人と関わるのだって仕事だけ。
若いのに仕事一筋の根暗……そんなレッテルがいつの間にか貼られてる訳だ。


それだって別に気にしない。俺の計算が狂うことはない。
いつだって、そうやって生きて来たから。

今日も俺はこうしてパソコンの前にいる。
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