携帯獣(NL)−ブック
□線香花火/お花見
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【お花見】
「綺麗……」
舞い散る桜の花びらを見つめてレッドは呟いた。湯呑に入ったお茶を差し出してエリカが微笑む。
「喜んでいただけて嬉しいかぎりです」
「うん。人もいないし……」
元来、賑やかなところを好まないレッドが花見を出来ているのは、ここがエリカの家の庭だからだ。
「花見って、楽しかったんだ。昔……やったことあるけど、あんまり記憶にない……」
「ふふっ、そんなに気に入ったのなら来年もまたやりましょう。花見」
「来年……うん、でももっとずっと先もここでこうやって見ていたい、かも」
「……それは、プロポーズでしょうか?」
少し恥ずかしそうに、冗談っぽさを含めた言い方でエリカは尋ねる。レッドは目線を上にし、少し考える仕草をしてから、小さく頷いた。
「うん。そうかも」
辺りが静まる。吹きぬけた風が桜の木を揺らし、散った花びらが二枚、湯呑の中に落ちた。