様々なカプを書く企画(仮)−ブック01

□【ヒョウタ受け】ゲン
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「それで、この前――」

「ああ、そうなんだ。それは貴重な体験だね。そういえば、こうてつじまでも」


ここはクロガネにあるヒョウタの自宅。遊びに来たゲンとテーブルを囲んで話している。二人の前にはヒョウタが淹れたコーヒー。ヒョウタはブラック、ゲンはミルクと少量の砂糖入りだ。


「ねぇ、ゲンさん」

「なんだい?」

「この前、新しいジムの門下生に『あの人とやけに仲が良いんですね。どうしてですか?』ってきかれたよ」

「その話を私にするってことは、あの人が私ってことなのかな?」


ヒョウタは小さく頷く。ゲンはもともとトウガンの友人だ。昔からクロガネに住んでいる人はゲンがどういう存在なのか知っている。しかし、新しく来た人間はゲンが誰であるのか、たまにしか現れないのにどうして親しいのか気になるのだろう。


「昔から一緒にいるからね。父と息子、兄と弟、年の離れた友人……どうとでもとれるような付き合いだった」

「本当だよ。母さんが死んでからは父さんよりゲンさんといる時間のほうが長くて、いまだってゲンさんと過ごした時間が長いんじゃないかな」

「はは、言えてる。私ももう今はトウガンさんよりヒョウタくんと過ごした時間のほうが多いかもね」


ゲンはカップに手を伸ばし一口飲みこんだ。ヒョウタもカップに手をとり、少しぬるくなったコーヒーを口に含む。と、カップを元の場所においたゲンが、ふいに窓の外に視線をやった。いつも以上に穏やかな横顔。


「……でも、最近思うんだ」


表情がさらに柔らかくなる。コーヒーを飲みながら、ヒョウタは続きを待った。


「一緒にいる理由はそれだけじゃなくて、ヒョウタくんのことが特別な意味で好きなんだからじゃないかって」


コーヒーを啜るヒョウタの手がとまる。しかしそれは一瞬で、彼もまた柔和な顔つきでカップをテーブルへと戻した。


「奇遇ですね。門下生にきかれたとき、僕もそう思いました」

「そうか」

「はい」


カップの表面を撫でて、彼は小さく頷く。外を見つめていたゲンの視線がヒョウタに戻った。特別なことは何もない、普段と同じ雰囲気で。


「ああ、トウガンさんで思い出したんだけど、三日ぐらい前にミオでね」

「えっ、なにか問題でもおこしたんですか?」


眉をひそめるヒョウタに、そういう話じゃないよとゲンは言い、ひとまず安心させてから会話を続ける。互いに先程の告白のことも、これからどうするのかも語らない。しかしそれは避けているのではなく、二人のなかでこれからがみえているからだった。だから、最初とかわらないように見える二人の様子も、しかし少しだけ甘いものに変わっていた。

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