様々なカプを書く企画(仮)−ブック01
□【ヒョウタ受け】チェレン
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「どうしようかな……」
シッポウ博物館前。チェレンはふたの化石を手に逡巡していた。復元すべきか、やめておくか。化石はそのままでも充分な価値があるので、復元せずにとっておくのも手だ。ただポケモントレーナーとしては復元したい気もする。だがしかし、すでにパーティーが形成されている今、復元してもボックスの肥やしになる可能性も捨てきれない。
別に今日決めなくてもいいか。チェレンがそう結論付けた時だった。ドサリ。近くでなにかが落ちる音がする。見ると、そこにはヘルメットで作業着姿の男が一人。どこかで仕事をしてきた帰りなのか、少し汚れている。
「君の持ってるそれ!」
「え? ふたの化石がなにか?」
「ぜひ、僕に譲ってくれないか!?」
足元に落とした荷物はそのままに、男がすばやくチェレンに近寄る。あまりの勢いにチェレンはいつもの冷静な反応を返せず、ただ圧倒されるばかりだ。
「え、えーっと」
「あっ、僕はねヒョウタっていうんだ。シンオウ地方のクロガネシティってところでジムリーダーをやっていてね。ヤーコンさんの招待でイッシュに発掘しにきたんだけど、いやぁ、珍しいものがいっぱいとれるね! でもそのふたの化石だけはみつからなくてさ」
「はぁ」
「もうくやしくてくやしくて! 化石ちゃんに嫌われたのかと落ち込んだよ。せめて博物館で実物をみようと思って来たんだけど、まさかこんなところで出会うとは! あっ、でも、そんなに素晴らしい化石……譲るなんてやっぱり無理だよね」
しゅんとなったヒョウタが口を閉ざす。ようやくチェレンも落ち着きを取り戻してきた。手のなかのふたの化石に視線を落とす。相手の男の熱意は痛いほど伝わってきた。どうすべきかその処遇に困っている自分よりも、これだけ欲している彼にあげたほうがこの化石も幸せなのではないだろうか。なんとなくそう思い、チェレンは小さく笑うとふたの化石をヒョウタに差し出す。
「いいですよ。あなたのほうが大事にしてくれそうですから」
「えっ、本当に!? うわー! ありがとう!」
「――――!」
輝く太陽にも似た笑み。ドクンと心臓が脈打つ。手から力が抜けるその直前にヒョウタが化石を受け取った。本当に幸せそうにふたの化石をなで、会えて嬉しいよと呟いている。いきすぎともいえるその行動も、いまのチェレンはおかしいとは思わなかった。いや、思えなかった。激しい動悸が苦しくて、胸をおさえる。
「あー! もうすぐ飛行機の時間! 急いでフキヨセにいかなきゃ」
ヒョウタはボールを手にし、プテラを出す。本当にありがとう。チェレンにもう一度お礼を言って彼は飛び去ろうとした。なにか言いようのない不安を感じてチェレンは拳を握る。プテラに指示を出そうとしている彼を自身の声で引き留めた。
「今度シンオウに行きますから、そのときは案内してください! その、化石のお礼……と言うわけではないんですが」
だんだんと小さくなるチェレンの声。初めはぽかんとしていたヒョウタの表情が笑顔に変わる。
「もちろん!」
その時はジムにきてくれれば、たいていの居場所は分かるから。と言い残してヒョウタは本当にいなくなった。他にも仕事をしてるのかな、カミツレさんのように。とチェレンはぼんやり思う。ヒョウタが消え去った空は、なんだかとても小さいもののように思えた。
「あれー? チェレン?」
「ベル。どうしてここに?」
「アロエさんに頼まれもの持ってきたの。チェレンこそ入口の前で立ち止まってどうしたの?」
「別に、なにも」
なぜか説明しづらくてチェレンはぶっきらぼうに視線を逸らす。不自然にメガネをなおす彼の顔を追いかけて、ベルがのぞきこんだ。
「えー? あやしいんだぁ。もしかしてデートしてたとか?」
「なっ、デートなんて、いま出会ったばかりで!」
「顔真っ赤! そうかぁ、出会ったばかりだけど好きになったんだねぇ。えへへ、チェレンにもついに好きな人ができたか」
うんうん、と頷くベルを尻目に、チェレンはようやく己のうちに生まれたものの正体を知りうろたえた。相手は男だ。まともじゃない。どうしたらいいんだ? けれどそんな悩みもいつしか、距離がありすぎるしうまく続けていくにはどうしたらという、まるで交際前提のような前向きかつ妄想まじりのものにかっていた。