様々なカプを書く企画(仮)−ブック01
□【リーフ受け】グリーン
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「それ、じーさんに頼まれたのか」
「うん。そうだよ」
トキワの森へ散歩に訪れたグリーンは、たまたまリーフと出会った。ボードに資料をはさみうろうろしている彼女に声をかけると、研究の最中だと言う。だがリーフは別に研究員でも何でもない。となればオーキドの手伝いをしているというのが妥当だろう。天然でドジも多い彼女だが、いや、それは今でもかわらないが、旅に出る前よりもだいぶお姉さんになった。研究の手伝いなんて、以前の彼女には絶対出来なかったのに。
「手伝ってやろうか?」
いつだって、レッドかグリーンが手を貸していたのだ。しっかりしてきたといっても一人でこなせるとは思えない。だからいつもの感覚で彼は彼女にそう尋ねた。と、リーフは急に真剣な顔になってグリーンに言う。
「必要ないよ。グリーンがないなくても私は平気」
「え?」
「一人でできるの。だから心配しなくていいよ」
それだけ言って、リーフはまた生態調査の作業に戻る。グリーンのほうなど一度も見向きしない。なんだかとてつもない距離を感じて、彼はしばらくのその場に立ち尽くしていた。
◆◇◆◇◆
「リーフちゃん」
「わっ、ナナ姉だぁ!!」
トキワの森での一件などリーフがすっかり忘れている五日後の夕刻。ナナミがリーフの家を訪ねた。本当の姉のように慕い、尊敬しているナナミの登場に彼女のテンションは一気に上昇。どうしたの?と抱きつくリーフの頭をナナミは優しく撫でてやる。
「グリーンのことなんだけど」
「グリーンがどうかしたの?」
「ん〜、リーフちゃんが普通ってことは、やっぱりあの子が一方的に気にしているだけなのね」
頬に手をあて、困ったわと一言。リーフは首を傾げ、ナナミを真っ直ぐに見上げる。
「グリーンね、あなたに言われたことがショックだったみたいなの」
「え、わたし、傷つけるようなこと言っちゃった?」
「いいえ。あの子の話を聞く限り、リーフちゃんが言ったことは何も悪くわないわ。だけど、あの子の場合」
そこでナナミは言葉を切った。これから先を私が言うのは間違っているわねと呟く。
「悪いんだけど、あの子に会ってあげてくれない? ああ、あなたは別に謝らなくていいのよ」
そう言うとナナミはリーフの横髪を梳いた。気持ち良さそうな顔を浮かべた後、リーフはコクンと頷く。
「わかった。会いに行ってくるよ。どこにいるのかなぁ」
「いまは家にいるわ。私はこれからでかけるから……よろしくね」
「うんっ!」
首を縦に大きくふったリーフは母に出かけることを告げ、そうそうに家を飛び出した。徒歩一分もかからない隣家へ駆けていく。習慣からチャイムは鳴らさずに、軽い足取りで階段を上がった。カチャリ。グリーンの部屋のドアを開く。
「グリーン」
「ふわぁぁぁぁぁぁぁ!」
「きゃあ!?」
声をあげたグリーンにリーフも驚く。二人はしばらくの間その場でかたまりあっていた。
◆◇◆◇◆
それから五分が経過し、お互いに落ち着きを取り戻した頃、グリーンが口を開く。
「なんだよ、急に訪ねてきて」
「あのね、ナナ姉が会ってあげてって」
パソコンに向かっているグリーンの横にトトトっとリーフがやってくる。彼女に聞こえないように余計なことをと、彼は呟いた。
「私、グリーンが困るようなこと言った?」
「困るっつーか、まぁ、ちょっとジム戦も芳しくないし、その辺は困ってるかも」
「ジム戦? どうして」
「だってお前が俺は必要ないっていうから」
「え?」
目をパチクリさせるリーフから目を逸らす。視線は絶対合わせずに続けた。
「俺はさ、レッドと同じでずっとお前の兄兼保護者みたいな感じで、これからもずっとそうだと思ってた。だけど、お前はもう俺はいらないっていった。だからさ、恥ずかしいけど寂しかったつーか、虚しくなったって言うか」
頭をがしがしと掻く。本当はこんなこと話したくなかった。でも、こういう時のリーフには誤魔化がきかず、やたら食い下がることは熟知している。ので、初めからハッキリ言ったほうが得なのだ。隠そうとして余計恥ずかしい思いをした回数は数えきれない。
「……違うよ」
しばしの沈黙をえて、リーフの声が部屋に響いた。はっきりとした、いつになく真剣な声音。
「私、グリーンのこといらないなんて思ってない」
「でも、お前」
「お手伝いは一人でできるよ。ううん、やりたいの。ずっと頼ってばかりは嫌だから。でもね、グリーンがいてくれなきゃつまらないよ。楽しくない。お兄ちゃんと同じように大切な人だもん。そばにいてほしい。それじゃダメなの?」
きゅっとグリーンの手を握る。与えられた言葉の衝撃にしばらくかたまっていた彼は、やがて現実に思考を戻し、しどろもどろに言う。
「べ、別にダメじゃねーけど! ったくよぉ、しょうがねぇなぁ。これからも一緒にいてやるよ! 感謝しろよなっ」
「うんっ! あっ、もうすぐご飯の時間だから帰るねー」
「お、おう。相変わらず自由な奴だな」
時計に目をやり、ごはんーと上機嫌で部屋を出ていくリーフを見送る。玄関の閉まる音がして、グリーンは机に突っ伏した。あんなふうに言われて機嫌が直るなんてあまりに現金すぎる。
「……つーか、俺」
ただの兄だと思っていた。でも違った。そのことを今回の件で知ってしまった。リーフのほうはまったく自分を男として意識していないだろう。この気持ちは一体どうすればいいのか。新たな悩みにグリーンはそれはもう苦しそうに唸ったのだった。